ブログ小話 バトン

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六方言葉

【Ezo】


「今日こそ、モノを言わせてもらおうかっ!君は立場上、私の部下だっ!」

「そんな声張上げ無くっても聞こえるゼ、大鳥さん。みっともねぇ…」

「最後の一言がいつも多いんだよ君はっっ!!!!」

見得を切り、まるで自分を震い立たせるかのよう
大鳥が椅子を跳ね飛ばして立ち上がる

テーブル越しの前方で片方の耳を小指で押さえ
そっぽを向く土方が怒鳴り付けられているわけだ

「まったく、君はいつもこの話しとなれば業を煮やすな」

「アンタが、しつこいンだろ?いい加減にして欲しいのは俺の方だな。もう戻りてぇンだけど…」

チラッと上座の榎本の方へ目配せする

「そうだね。二人が何時までも喋ってるの、ちょっと飽きてきたし…また明日ってことで…」

「榎本総裁っ!!貴方まで、そんな事だから土方くんが聞き分けの無い事を言うんです!」

「だって、聞いてる方も疲れるんだよね。二人で詳しく話し合ってから教えてよ」

「それじゃいつまでも話が進まないからだっ!」

「そうだけどさ…」

「テメェ、榎本さんに八つ当たりか?聞き分けねぇの大鳥さんじゃねぇか」

「何だとっ!?」

「もう本当に、ちょっと落ち着いて…」

「バカの一つ覚えのように『俺の言う事に間違いない』と君は言うが、僕は上司として、指摘してるんだ!!」

「その言い方が腹立つンだよ。アンタの意見は必要無ねぇ、誰も頼んでねぇだろ!」

土方は力任せに、テーブルへ
ドンッ!と拳をめり込ませた

「あのさ、話し聞いてって。終わらせたいんだけど…」

「何を言っても君には無駄だな。やはり、バカバカしいよ」

「バカで悪かったなっ!アンタより学の無ぇバカでも阿呆じゃねぇよ!この、阿呆鳥!!」

「あっ、阿呆鳥とは何だっっ。阿呆鳥とはっ!!!!!」

「榎本さん、もう諦めた方が良さそうだ」

「いや、諦めないで太郎ちゃんも止めようよ…」

「阿呆だから阿呆ってンだろうがっ!!!!!阿呆鳥らしく、海に浮かんでれば良いンじゃねぇのかァ?!」

ハンッと笑いながら言う事に、大鳥の顔は真っ赤に染まってゆく

「―…馬鹿も阿呆も変わらないじゃん」

「榎本さんは黙ってて下さいっっ!!」

「テメェも馬鹿にしてンのかァ!?」

と、今度は榎本まで火の粉を被った

その瞬間
石化する榎本の中で滅多に切れない何かが…

プチンとはち切れる







「引っぱたかれてぇのかベランメェっ!!!」



《《……………。》》



榎本の第一声で、会議室全体が凍てつき
狐に摘ままれたかのように面食らって全員が押し黙ってしまった

「馬鹿野郎も阿呆もテメェらじゃねぇか!!!!!!!」

誰しもが思っていても、けして口にしなかった事を乱暴に
ケッと唾まで飛ばして吐き捨てる

「榎本さん、言葉が博徒か裏店の商人になってますよ。如何にも、ぞんざいな口調なことで」

「阿漕なマネすっから」

ここで唯一平然と口を開いた松平にもフンっ!と鼻まで鳴らす始末だ


「頭冷やして一昨日来やがれてンだっ!」

松平がクククと喉を震わせている合間
二人に啖呵を切り一人で出て行ってしまった

「あぁ、田島くん。総裁の今の御言葉は、訳さなくて良いからな」

「はぁ…;」

松平がそれだけをブリュネ横の通訳田島に言い残し
榎本の後に続いて行くと、再び会議室には沈黙が戻る










「…土方くん、引っぱたかれに行こうと思うんだが…一緒に来るかい?」


「……………あぁ…」


やはり、この蝦夷箱館政府はあの榎本無くしては成り立たない

誰しもが、それを肝に命じた瞬間だった









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