箱館novel log

□ゆきあい
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「おでんが食いたいな」

特に腹が減っているわけではないが、なんだかフとそう思った。
口に出すと僕の前で一緒に酒を呑んでいた本多も話に乗ってきた。
そうなれば話は早いもので食べに行くかということになった。
しかし、この極寒の蝦夷の外に屋台なんて物は無い。
まぁ店まで少し歩くがそれほど遅い時間ではないから問題はないだろう。
冷えるからと二人で厚着をしていると、
マフラーで鼻を隠すように巻いた大川が部屋に入ってきた。

「まだッスか?早く行きましょうよ」

「……」

本多に目を向けると、本多も俺を見ていた。
あれ。二人で行くんじゃなかったのか、みたいな顔を互いにしてしまう。

「お前、言ったか?」

「いいえ、言う暇があったと思いますか?」

「………」

大川の方に目を向けると、廊下寒い、早く、と待っている。僕たちの空気など読んでいない。
なんで行くこと知ってるんだとか、大川って背ェ高いよなとか、なんか、そんなどうでもいい事が気になってしまう。

「ま、2人も3人も同じだよな」

まぁ別に、大川がいて悪いわけではないし。と言えば本多も頷いた。
3人で行こうとすると今度は背後から、オイと大川を呼ぶ声がした。
振り向けば滝川がいる。

「お前そんな巻き方して息苦しくないの?外套はどうした」

滝川はマフラーに外套と、完全防寒して立っていた。
大川が大丈夫と返事をする。

「店行くまでが寒いだろ」

あ、こいつも行くのか。
滝川もなんだ。本多と顔を合わせる。
本多の微妙な表情ったらない。僕も今こんな顔をしてるのだろうか。
まあまあ、この際、3人も4人も一緒か。変な妥協心が生まれる。
4人でぞろぞろ行くのもどうかと思うがまあ、大丈夫だろう。
4人並んで歩きはじめると、そう言えば、山口や浅田がいないことに気付く。
こっそり付いて来てたりしないのだろうかと周りを見渡すがいない。
いや、まぁ、いないことが普通で他の二人がおかしいだけだが。
しかしここまで人数が揃ってくると逆にいない奴のことが気になってしまったりする。のは、僕だけなのだろうか。
3人は山口や浅田の事など忘れているかのように口に出さない。もしかして嫌われてたりするんだろうか。
しかしそれにしても表向きだけでも気にしたらいいのに。
山口はまあ話が長くてなんか面倒くさいが、そんなもの一人で喋らせとけばいいじゃないか。
浅田は賑やかというか煩い奴だが、そんなものほっとけばいいじゃないか。
なんで俺が山口や浅田なんかにこんな優しい気持ちになっているのかは知らないが、とにかくなんだか気になって仕方がない。

「山口と浅田はいいのか」

僕が言うと、滝川は思い出したかのように、ああと口を開いた。

「2人なら先に行くって言って、少し前に出て行きましたよ」

「………」

滝川の言葉に僕と本多は顔を合わせた。
なんで皆知ってるんだよ。2人の疑問はいつまでも終わらない。










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