箱館novel log

□衝動的に卒業
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「とと様とお風呂入るのもう嫌になった」


突然の一言だった。
とにかくその言葉に驚くしかなかった。
宣言されたこの家主もといとと様の圭介はと言うと、その言葉に反応しまくって銚子を持つ手が震えている

それはショックからなのか、それとも、


「てか…二人とも一緒に入ってたの?」


私にその事実がバレてしまったからなのか。












「え、どうしたの…いきなり」

ホントに、急になんだってんだ。
現在、圭介の自宅へ久々に呑もうかと遊びに来て。
この家は娘が多くて華やかでいいね。とか話してて。
すずさんとの長女で、その発言者ツルちゃんが圭介の膝に乗っかって来たので、随分と大きくなったねぇ。なんて言いながら晩酌してた矢先の事。
取り合えず一緒にお風呂なんか入っちゃう圭介の思考やらなんやらは置いといて、さっき、そのツルちゃんが言った言葉の理由を聞こうじゃないか。


「なんか嫌なんだもん」


あぁ…、断る理由で最も言われたくない「なんか嫌」が早くも…。
なんか嫌。とか、もう言われた方としては一体どうしたらいいのか分からないからね。男はなかなか傷付くからねそれ。
しかも愛娘から聞かされた日には痛恨の一撃だろうね。いや、自分には息子しか居ないから知らないけども

って、何故このタイミングでこの子も…。居合わせてしまった自分はどうすればいいのか分からないけど、
とにかく、あまりに圭介が可哀想なのでちゃんと理由を言わなくちゃ、と注意すると、うーん、と小首を傾げて悩む。

そして新たに口を開いたかと思えば


「なんかとと様の汚いのなんて見たくないの、なんで男は股にあんなものぶら下がってるの気持悪い」

世の男全員全否定しちゃったよこの子。

何その理由。いや、きっとこれが世に言うアレだ。
お年頃の少女がお父さんって気持悪い。と思い始め、なんでこんな気持悪い人と一緒にお風呂入らなくちゃいけないの?…という少女の感覚だ。
多分これは娘を持つ父親なら誰だって越えなければならない登竜門なんだろう。

やばいコレはなんか生理的に受け付けていないのでは…そうなると私にはもうどうすることもできないよ。いや、別に圭介の事だからいいんだけどさ…。
居合わせてしまったからには、なんか放っておけないし。ここで同じく娘を持つ了介ならなんか気の利いた事を言えるんだろうか。
私が言葉に困っていると、さっきまで無言だった圭介が漸く口を開いた。

「お前なぁ…逆にぶら下がってなかったらどーすんの。俺からしたら、ぶら下がってない方が気持悪いんやけどー」

説得するんじゃないの!?
この人一緒に入りたくないよりも気持悪いって言われた方が傷付いてる…?
そりゃまぁ気持悪いとか言われても、それはもうどうすることもできない訳だけど。

「もうどうだっていいの。とにかく気持悪いからとと様とお風呂は入らない」

あちゃー。反抗期?
ていうかまぁよくよく思うと私としてもその方がいい気がする…うん。
ツルちゃんとお風呂に入っていいのか悪いのかと言うと入っちゃダメだと思う。
幾ら溺愛してても、圭介にそんな趣味なかったとしても、世間が許さない。
そう言うお年頃って事で、ここは潔く諦めるべきなんだろう。コレもまた一つ大人に近付いた証拠なんだし


「残念だね圭介」

寂しさをまぎらわす為か、持っていた銚子をグイッと傾け酒の世界へ逃げる圭介は、べつに、と言いながらもその口は強がる。
だから空になった盃に酒を継ぎ足してあげた。
まぁ、圭介の気持ちも分からなくはないんだよ同じく親としては。
でもこうした方がいいから、絶対。










夜、泊まって行けと言われて勝手知ったる書斎をガサガサしている最中、圭介は一人で風呂に入っていた。
隣の居間ではツルちゃんが座って元気に妹と本を読んでいる。
そうそう、これが普通。
変な習慣がつかなくて良かった。なんてったって嫁入り前なんだから。

そう思いながら様子を伺っていると、ツルちゃんは、いきなり立ち上がり。スタスタと風呂場の方へ歩いていく。
あれれどうしたんだろ?


「お風呂入るのかな?」

声をかけると、ツルちゃんは頷いた。


「なんか一日一回とと様のアレ見とかないと落ち着かない」


そう言って風呂場へと入って行く。


「・・・・・。」


どうすんだ圭介っ!!
テメェの娘に変な習慣ついちゃってるんですけど!!








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娘溺愛な鳥さんに巻き込まれる人を書きたかっただけです。

このネタこそ衝動的。




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