箱館novel log

□犬もくわない
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“子が母を慕うが如く”と、後に伝わるよう土方を敬愛してやまない新選組。
その新選組隊士の中でも、本当に“子供”と表明される事がある小姓の仲良しこよし3人組…市村、田村、玉置が、キチンと並んで正座をさせられ
口を揃えて言った

『すみませんでした。』


「謝って済むなら切腹はいらねぇっ!!」

3人の前には正しく、母が子をガミガミ叱り付けるが如く姿の、頭上から怒鳴る土方が居る。

そのよく通る怒号は箱館庁舎中に響き渡り。
何事だと諸隊組士の人だかりがいつの間にか出来ていた。
ただ土方の気迫に圧倒され唖然とするだけで、誰もが口を挟むこと無く野次馬に徹している。
土方はその周囲に目もくれず矢継ぎに怒鳴り散らすもんだから、
騒ぎに駆け付けた大鳥が、人混みから前へ出て土方と3人の間に立った

「土方くん少し落ち着け。どうしたんだ?」

「煩ぇな!アンタは黙ってろ!」

完璧に頭に血が昇っている様子の土方。しかしここで怯むことは無いのが大鳥だ

「何があったか知らないが、そんなに叱ることは無いだろ」

「悪いモノを悪いと正してやってンだろ!それが何だ!!」

「待ってくれ。こう一方的に怒鳴るばかりで、子供が育つものか」

「ぁあ゙!?言っても聞かない奴はな、ひっぱたいてでも教えなきゃ分からねぇンだよっ!」

「それは違う!子供だから時には無茶をするだろうが、それを叱るのでは無く見守ってやるのが君の役目じゃないか?!」

「俺の育て方に文句あンのかテメェは!?」

「そうとは違う!君は子供相手に大人気が無いと言ってるんだっ!」

「大人気ねぇとか問題じゃねぇっ!いーからアンタは口を出すな!!」

「なんだと!君こそ一度頭を冷せ!!」

段々と大鳥もつい意地になり始めてしまった為、すっかり露点が擦れ。
正座する3人は絶え間なく交わされる頭上の応酬をただ見上げるだけだ。
その市村の肩へ背後から、ポンっと手が置かれた

「君たち反省した?」

と顔を横に突き出して来たのは榎本だ。その背後には松平も素知らぬ顔で立っている。
この2人は、土方と大鳥の五月蝿さに呼ばれて来たようだ。

「どーせまた何か悪戯でもしたんでしょ?ホラ、立って」

元気があってなによりだよ。と榎本は笑って3人を立たせると、
視線を合わせた位置で人差し指を一本伸ばす

「じゃあ3人は、今日のおやつと夜のデザート抜きって事で。いいね」

『はーいっ!』

「テメェまでなにを勝手にッツ!」

榎本に刑罰をあっさり申し伝えられた3人は納得すれば説教も終わると潔く返事をして、その場を逃げた。
一度、それを引き留めようとした土方だが、
今度は矛先を榎本へ変え睨んだ

「オイコラ!」

「まったく、騒がしいんだよ2人とも。いい加減そこまでにしてくれないかな」

「僕はただッ…」

「ハイハイ、全部部屋まで筒抜けだったよ」

食って掛かる2人を、どちらの言い分も聞かないと掌を動かして宥める榎本。

「取り敢えず仕事に戻ろうか。これ以上は時間の無駄使いだと思わない?」

もっともらしい正論に土方と大鳥は押し黙ったが、
互いに今にも噛み付かんばかりの険悪な睨み合いを止めない。
間合いにバチバチ花火を散らす2人を見て、松平と榎本は横目を見合わせ小さく溜め息を吐き出した

仕事で衝突しまくる分には熱意が有る何よりの証拠だからいいものの、
こうもつくづく揉めるとは、逆に、気が合わないと言うところで、息が合ってる
と思うわけだ


「そんなさー、子供の教育方針で揉める夫婦じゃ無いんだから」

『誰が夫婦だっっ!!!』


大鳥と土方は息ピッタリ言い切った。


終 2010:11.22執筆


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