Ballad of Love

□第三話 雨落つる空、舞う風
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雅「うぇー。あちー」
主な教室が集中するグラウンド側とは逆の校舎の真ん中の校舎のさらに奥。いつもの争奪戦が起きる校舎とは別の、第三校舎の屋上にきていた。
彼以外に人影はない。それもそう。
この暑い真夏の最中に、直射日光バリバリの屋上に誰が出ようというのか。
それにこちら側の棟は、理科の第二実験室や第二音楽室などほとんど使われない系の教室が集中している、いわば旧校舎のため、昼休みには滅多に生徒の姿はない。
そんなところに彼が何の用なのか?
──特に用はない。
ただ、最近、この暑い中でも快適に過ごせる日陰ポイントを発見したからきているだけ。
屋上なので、風もある。
彼はそのポイントにやってくると手にした弁当の包みを傍らに置いて、まずは、壁にもたれかかった。

雅「ぉあー。やっぱ、ここすずしーわー……ぁ」
まだ高校一年生だとは思えないような、おっさんくさいうなり声。
あぐらをかくと、包みから弁当を取り出し、膝の上に置く。猫背をさらに折り曲げて、中身を覗き込んだ。

雅「おおー、うまそー」
自分で作ったクセにそんなことを言う。
ぎっしりとつまったご飯に、ほうれん草のおひたし、厚焼き卵、ボイルしたソーセージ、アスパラベーコン包み焼き。
簡単でも、空腹の猛獣を満たすには十分な量だ。それにどうせ、バイト先のコンビニで仕事がはじまる前にまた何か食べるだろうし。
彼は、ここに来る途中に買ったパックのコーヒー牛乳にストローを刺した。

雅「いっただきまーっす!」
次から次へと、ご飯、おかずに箸をのばし、あっという間に平らげた。

雅「ごち」
合掌して、ぺこりと頭をさげる。自分で作ったんだけど。
ちゅー、っとパックのコーヒー牛乳の残りをすする。
とてもまったりしてていい。
昼休みを教室で椿たちとわいわい過ごすのもいいけど、たまにはこうしてひとりでゆっくり過ごすのもいいなと思える。
もちろん、彼は、“カノジョ”が『ひとりで』という部分に引っかかりを覚えてブルーに染まっているなんて、微塵も思っていなかった。
明日は、いっしょにこようかなー。
とか、考えるくらいだった。
カノジョのことをないがしろにしているワケではなく。むしろ想えば、カノジョのことが一番に浮かんでくる分、始末が悪い。
しっかりとカノジョが戸惑っている。それが近頃、不安に変わってきていることに、もちろん―のんきにコーヒー牛乳を飲んでいる“カレ”はまだ不安に気付いていない。
気付いたら、カノジョのことを放っておくはずもないが。
だからかもしれない。
それはやってきた。

はじまりは、いつも突然だ。
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