青学

□何回目
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「桃、誕生日おめでとう」
薫が帰ってきたのを出迎えようと、玄関で俺が立っていたら、ヤツは帰宅早々俺を抱きしめた。
甘い声で俺に囁く。
俺は恥ずかしくなった。
「そうだっけ?」
知ってて意地悪でそう返す。
薫は困ったような顔をして俺を見つめた。
「お前、自分の誕生日も分からないのか?」
昔から変わらない俺をバカにしたような言い方も、コイツの不器用な愛情表現。
それに答えるように俺も似たような口調で返す。
「自分の誕生日くらい分かってるよ、バカ」
するとヤツは「あぁそうだな」と柔らかく笑った。
普段と変わらない筈の食卓に、ケーキが並ぶ。
これで何度目の二人で過ごす誕生日だろうと思った。
「9回目だな」
薫が口を開く。
しかし、俺には9回もヤツと祝った記憶なんてない。
「そんなわけ有るかバカ」
と言うと薫は自信満々に数えだした。
「幼稚園時代の三年と15,16,17,18,19、そして今日だ」
「は…?」
確かに幼稚園は一緒だったがヤツと二人きりで祝った記憶はない。
まさか、幼稚園のお誕生日会まで含めるつもりなのかコイツは!?
ま、確かにそれだけ長いつき合いがあるのだ。
それは否定しない。
「幼稚園のお誕生日会はノーカウントだ!!二人きりじゃねーからな」
そう言うと、ヤツは小さく舌打ちした。
「でもま、強ち間違っちゃいねぇか…」
そう言ってグラスを握る。
そこには今日から解禁になった素敵な大人の飲み物が入っている。
「今日でまた俺たちは平行線だな!!」
「あぁ!!」
そんな訳の分からないかけ声と共にグラスが鳴り、人生何度目か分からない大好きなマムシ様との素敵な誕生日会が始まったのだった。

The end
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