「うり…ウリ、瓜がいいな!」 歩きながらずっと、ぶつぶつと何かを呟いていた人間は突然そう言ってオレの身体をもちあげた。 「おまえの名前は瓜だぜ!」 【名付け】 人間はオレの噛み痕にぐるぐると布を巻きつけると立ちあがる。 適当に巻きつけただけの布は、止まりきっていない血が滲んで赤く染まっていた。 「っし!とりあえずはアジトに帰らねーと、ほらおまえは匣に戻ってろ」 久々に外界に出たのに、すぐに帰るのは嫌だ。 「痛ってぇ…ひっかくなよ」 片手は血みどろ、片手はみみず腫れ、いい加減に怒るだろうと思っていた人間はやっぱり笑って頭を撫でるだけだった。 「しょーがねぇな。ちゃんとついてこいよ?迷子になっても知らねーからな」 そのまま歩きだした人間に、ひきよせられるようにオレも歩きだす。 人間の足元でオレにしてはおとなしく歩いていた。 と思ったら突然これだ。 両脇に手をいれられて目をあわせるようにもちあげられる。 また緑の瞳にオレがうつっていて、それに気づくと身体がむず痒くなった。 「シャアア」 「オレは獄寺隼人。これからよろしくな?瓜」 首を傾げて笑うそいつは、なんてことを言うんだろう。 オレは初めて人間にこのさきの話をされた。 よろしくだなんて、まるでオレを対等の立場におくような。 兵器に向けて使う言葉じゃないと思う。 オレに名前をつけようとしたのもこいつが初めて。 名を呼ぶということは、それを個と認めるということだ。 オレの存在をこの地に縛る。 そして、オレとこの人間を結ぶんだ。 こいつはそれをわかっているんだろうか。 にこにこと笑いつづける人間。 「うーりっ」 オレが噛みついた手でオレを抱きしめようとする。 なんとなく身体が動かなくて好きなようにさせることにした。 信じられない心地で、オレは空を仰ぐ。 青と白と、キラキラの銀の髪。 獄寺隼人。 オレは初めて人間の名前を覚えようと思った。 変なやつは「おかしなやつ」に昇格した '08/6/18 <<戻(じゅんど) |