れんさい

□蝶は太陽に焦がれ焼け堕ちる
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【のぼる太陽】



力ない人だった、と隼人は思う。

いつも寂しげに微笑んでいた優しい人。
その人の笑顔のために、隼人は力になりたいと強く願っていた。



「隼人、泣きそうな顔してるよ」
くすくすと綱吉が笑う。
薄茶の髪がふわふわと楽しそうに揺れた。

「申し訳ありませんっ!オレになにか力があれば…」
綱吉が身体を起こしているベッドのふちに腰かけて、膝の上でぎゅっと握った拳を見つめながら隼人が悲痛な声をあげる。
その俯いた顔をあげるように頬に両手をそえて綱吉は優しく微笑んだ。

「違うだろ?これはオレの責任で君はなにも悪くない」
綱吉と目をあわせながら、それでもこらえるような顔で隼人は首を横に振る。
「ほら、泣かないの…心配で寝れないんだけど?」
隼人は手をとられて、綱吉にぎゅっと握られた。
お互いの額がこつんとあわさって熱がじわじわと感染していく。

隼人にはもう、どうすることもできないのだ。
それだけがはっきりした真実。
隼人の頬を幾筋もの涙がつたっていった。

「…おやすみなさいませ、綱吉さん」

震える筋肉をひき結んで必死に笑顔をつくる。
綱吉の願いをすべて叶えたいと、隼人の想いはいつだって純粋でまっすぐだった。
そのことを綱吉も知っていてその心がとても美しいと、そのたびに笑ったのだ。

さぞ不恰好な笑顔だっただろうと隼人は思う。
きっと鼻は真っ赤だし目許も涙でくしゃくしゃだ。
それでも綱吉は隼人の髪を撫でて、優しく笑いながら瞼と唇にキスをした。

「うん、おやすみ隼人」

ベッドに横になり、ゆっくりと閉じられた蜂蜜色の瞳が開くことは二度とない。

「どうかやすらかに…愛しい人」

笑みの形をつくった唇が震える。
堪えても流れおちる涙が視界を歪ませて、大切な人の髪を撫でた手は方向を見失った。

嗚咽をくりかえす身体は震えも涙もおさまることはなく、喉からひきつった音がでるようになったころ2人だけだった部屋の扉が外側から開く。

月明かりに照らされたその人が美しくて、震える唇で最後のキスを贈った。
どれだけ嘆いても彼が動くことはない。

それは、別れの儀式が終わった瞬間だった。



意識が浮上する感覚。
甘い香り。

花を摘まなければ、と隼人は思った。

「気分はどう?」
横合いから声がかかって、ぼうっとした感覚のまま首をめぐらせる。
薄闇の中にあっても溶けあうことなく存在を主張する漆黒が隼人を見おろしていた。


'08/2/22


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