れんさい

□蝶は太陽に焦がれ焼け堕ちる
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【手折れた蝶】



「…重っ」

息が切れる、体力には自信があるが自分と年も身長も似かよった相手を背負えばこうもなるだろう。
見た目に違わず細いようで、一般の青年より軽いのだろうと隼人は思った。
耳元で聞こえる弱々しい息づかいに焦り、必死で家へと向かう。

森で倒れている恭弥を見つけた隼人は、その腹部から流れる血に驚愕した。
一般人の隼人にも、それが致死量であることはすぐにわかったからだ。
他にも体中に切り傷や打撲があって、一瞬獣に襲われたのかと思ったがこの森に獰猛な生き物はいない。

気になることはあったが、そんなことより彼の怪我の手当てを優先させた。
傷口を布で押さえて止血したが、これだけで助かるような怪我ではない。


隼人が家に辿りついたのは、陽が昇る10分前のことだった。


「…っと、これで」
ふうと息を吐く。
隼人が拾った青年は腹部を貫通する刃物傷があり、そこからの出血は彼の命を危うくさせていた。
消毒と布や包帯による止血、医者でもない隼人にできるのはその程度のことだったがどうやら問題なさそうだ。
彼の身体は人間などよりよほど丈夫で、安静にさえしていればこの怪我で死ぬようなこともない。

「まさかヴァンパイアとはな」

家に運ぶまで気づかなかったが、青年は間違いなくヴァンパイアだった。
人間と判別のつかない外見をした絶世の美男子。
それだけでは判断材料にはならないが、傷口の回復の早さにもしやと思い確認すれば立派な牙。
身体を拭いているうちに細かい切り傷は塞がりはじめていた。

「陽が昇るまでに家についてよかったぜ」
部屋にも陽がはいらないようしっかりとカーテンを閉めてある。
ベッドに眼を向ければ先程より顔色のいい青年が規則正しい寝息をたてていて、隼人は安堵の息をついた。
あとはヴァンパイアの回復力を信じればいい。

それにしても、とベッドを覗き込む。

身なりを整えれば男の隼人から見ても恭弥は綺麗な容貌をしていた。
闇色をした艶やかな髪。
きめ細かな白い肌。
髪と同じく濃色の睫は長く弧を描いている。
薄い瞼の下にあるだろう瞳の色にも興味が湧いた。
それはあとで確かめようと決めて、雲雀の額に浮かんだ汗を拭うと立ちあがる。

隼人は、汚れてそこかしこが破れてしまっている青年の服を洗濯しようと部屋をでていった。


'07/8/31


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