れんさい

□蝶は太陽に焦がれ焼け堕ちる
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【太陽の祈り】



白い石に彫りこまれた墓標を指で撫でる。
“沢田綱吉”
隼人が愛した人の名だ。



ふりかえれば居心地悪そうに立っている恭弥が見えて、隼人は小さく笑う。
大切な人の大切な墓、彼をこの場所に案内したのは知ってほしかったからだ。
なぜ隼人が恭弥を助けたのか、そしてなぜ生きてほしいと願っているのかを。

さきほど恭弥が質問してきたときに見た眼を隼人はよく知っている。
毎夜、寝る前に見つめる鏡にうつった自分の眼だ。

自分達は似ている。
だからこそ、隼人は恭弥に伝えたかった。

「こっちにこいよ、恭弥!」
「僕に指図しないで…行くから、あんまり動いちゃダメだよ」
恭弥が中々こようとしないので迎えに行くために立ちあがろうとすれば慌てたように恭弥が向かってくる。

きっと隼人の身体はもう大丈夫だ。
さきほど歩いたときにもそれほど違和感を感じなかったし、走ろうとしなければふらつくこともないだろう。
それでも隼人を気遣う恭弥に、その優しさに、こみあげる衝動のまま隼人は微笑んだ。

優しさに色があるのなら綱吉と恭弥は同じ色をしているんだと思う。
そしてそれに形があるとしたらきっと2人の優しさはまったく違う形をしているのだ。

そう考えて隼人はひとり笑った。

恭弥の事情なんて隼人にはわからない。
身分の高いヴァンパイアであることは恭弥の態度から間違えないとは思っているが、それほど力のある彼がなぜあんなにも手傷を負っていたのか。

隼人はあの怪我が誰かしらと争って負ったものだと確信していた。
追われているか、あるいは追っているのか。
なんらかの事情があるのだろうと推測している。
命の危険があるというのならなおさら、隼人には言っておきたいことがあった。

生きることを諦めている恭弥に、どうかその命を無駄にしないでほしい、と。

「お墓なんでしょ…?これ」
「ああ、3年前この街で亡くなった」
「そう…ここに一族全員がってわけじゃなさそうだけど?」
隼人の隣に同じようにしゃがんで雲雀はその墓標を眺める。
刻まれた名はただひとり、隼人の愛しい主人のみ。

「沢田綱吉さん…オレはこの方専属の提供者なんだ」
「さわだ…つなよし、さん?」
聞き覚えのある単語に雲雀は眉をよせた。
「ヴァンパイアなら知ってるだろ?」
雲雀の反応に確信をもって問いかけた隼人は、その瞬間不思議そうに瞬きをした相手の表情に首を傾げる。

「恭弥」
「え…?」
「まさか、知らねーの!?」
隼人は驚いた。
ヴァンパイアである以上この名を知らないはずなどないと言っていいのだから。

「知らないのかって…さっき聞いたばかりだよ、君の口から」
「へ…オレ?バカにすんなよ、そんなわけねーだろ!?」
「バカになんてしてないよ、君が言ってたんだからね?つなよしさんって」
「オレが、え?あ…あの夢」
恭弥の言葉にさきほどの夢を思い出す。

呟いた隼人の言葉に不愉快そうに眉をよせながらも、恭弥はなにかに納得いったようだった。
「夢をみてたんだね。それで…か」

「それで?」
きょとんととした顔で首を傾げた隼人になんでもない、とかえしながら恭弥は墓標を睨みつける。
「その綱吉さんを知らないことがなんだっていうの」
「あ、違うぜ?綱吉さんのことは誰も知らねーと思う。オレが言ってんのは沢田家のことだって」

「さわだ…」
今度こそわかったらしい恭弥の反応に満足そうに頷いて、隼人は苦笑した。

「沢田一族って言えば、おまえ達の王じゃねーか」


'08/3/23


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