【2】 高校生とは悩み多きお年頃。 獄寺隼人は悩みやすいが基本的にポジティブだ。 学力が行動に反映されないあたり、どれだけ行動派かが見てとれる。 普段どおり考えなしで行動したために新たに巻き起こした事件を、いつもどおりその前向きさでのり越えようとしていた。 「獄寺!ヒバリと付き合うって本当か!?むぶっ」 その日の授業すべてを終えた終礼の時間。 教室の扉をけたたましく開け放って叫んだ男子生徒の顔面に獄寺のカバンがヒットした。 「てめー、山本。ことを大きくすんじゃねーよ!その噂も明日までの命だ」 静まりかえった教室に獄寺の怒声が響く。 顔から滑り落ちたカバンを両手で受けとめた山本は、ずかずかと歩いて獄寺の前でとまった。 「ただの噂だったのな?」 投げたカバンを投げつけられた相手から律儀に手わたしで返されながら、それを当然のように受けとって獄寺は頷く。 「そうだ。だから誤解が広がると迷惑なんだよ、余計なこと言ってんじゃねぇ」 獄寺の言葉にほっと安堵のため息をついたのは隣のクラスの山本武。 高校入学当初から獄寺への恋心を抱いているようなのだがどうやっても想いが伝わらない可哀想な男の子だ。 獄寺以外の全員が知っている事実に、なぜ当事者が気づいていないのかといえば眼中にないからである。 「ただの噂ってわけでもないのよ?」 黒川が哀れんだ眼差しを山本に向けながら教室の沈黙をやぶった。 「く、黒川花!」 「はっきり噂の真相を話といたほうが、このまま告白したことだけ伝わってくよりよくない?」 間違いだったと、それをはっきりさせておいたらどうなのかとすっと細められた瞳がいう。 だがそれは他に本命がいると言っているようなもので、そんな曖昧な本心の噂が流れるなんて恥ずかしすぎる。 それは嫌だとブンブン首をふる獄寺に黒川はため息をついた。 「だって、それじゃ何の解決にも」 「獄寺隼人、迎えに来たよ」 一瞬ざわめく教室内は登場した男のひと睨みで静寂をとり戻す。 獄寺を諭そうとしていた黒川の言葉をさえぎった雲雀は、教室の最後列ど真ん中で立ち尽くしている目的の人物を視界にいれて機嫌よく眼を細めた。 「もう支度もできてるみたいだね。よかった。それじゃ、行こうか?」 その言葉に自分の使命を思い出した獄寺はまるで挑戦者のような眼つきでこくんと頷く。 「ご、獄寺!?」 「じゃーな、山本。京子、黒川花、また明日な!」 悲痛な声をあげる山本を適当にあしらって、友人ふたりに別れのあいさつを済ませると獄寺は教室をでた。 そのまま廊下を歩いてきた雲雀に腕をとられ、並んで歩きながらも引かれるようにしてその場をさっていく。 階段を下りながら山本の叫び声のようなものを聞いた気がした。 「ヒバリ、先輩…オレ大事な話があって」 「そうなの?それは丁度よかった。僕も君に話したいことがあったんだ。お勧めの喫茶店があるから行こうか」 「お、おう」 楽しそうな雲雀の口調が不思議で首を傾げる。 少しだけ目線が上にある雲雀の顔を眺めながら獄寺は自分の使命、すなわち告白の間違いを伝えて誤解を訂正する機会を喫茶店にうつした。 人の噂は75日だが、早く忘れてほしいならそれ以上のインパクトを '08/5/9 <<戻(にせきんか) |