2008

□緑のイタズラ
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【みどりの悪戯】



初めてのプレゼントはランボの棒。

5歳のときにあげて、アホ牛って殴られた。
でも翌年のオレの誕生日にはブドウの飴を1つくれたっけ。
綺麗な緑色の包装の中に大粒のあめが入ってて、それだけ特別おいしく感じたのを覚えてる。

6歳のときは原っぱの野花をたくさん摘んだ。
7歳のときに駄菓子屋のお菓子10円分。8歳のときは100円分。
どの翌年も緑の包装の飴やチョコやクッキーの詰め合わせを貰った。
9歳のときに相手の好きなものをプレゼントすることを思いついて『月刊世界の謎と不思議』を。



翌年の5月末は夕飯をご馳走してくれた。
それと、緑のリボンが付いた箱。
中に辞書が入ってたのには驚いたけど。

その年はツチノコのぬいぐるみと、偶然オカルトの特集をしてた雑誌と96点のテスト。
「いつか本物をプレゼントします!」
そう言ったオレに一瞬驚いてからとても綺麗に笑った。
「期待せずに待ってるぜ」

それから、テストの答案用紙を見て楽しそうにオレの頭を撫でて「100点じゃないのがお前らしいよな」って。
本当は満点のテストを見せたかったんだってことをわかってくれて嬉しかった。
辞書を貰った日から、必死で勉強してとった点数を笑顔で褒めてくれたんだ。

それが10歳のとき。



次の年は靴を買ってくれた。
高校卒業してからはツナの右腕として本格的に活動をはじめてたからずっと忙しくしてたのに、その日はオレと一緒に1日中遊んでくれたんだ。
かっこいいデザインのその靴に緑の靴紐はピッタリだった。

オレもなにか身につけるものとか贈りたかったんだけど小遣いじゃどうにもならなくて、安物なんてあげても彼には似合わないからそれを買う選択肢はない。
大好きなブドウを我慢してもその年は間にあわなかった。

それで11歳のときは頑張ってとった100点のテストと、習いはじめたピアノ。
学校のピアノが上手な女の子に教わりはじめたのが6月だったから、そんなに上手には弾けなかったけどずっと1曲練習してたからなんとか最後まで演奏できた。

簡単な祝福の曲だけど荘厳で優しいメロディーが彼によく似合うと思う。
静かにオレのピアノを聴いたあと「よくやったな」って、テストとピアノどっちも褒めてくれた。



彼に頭を撫でてもらうのが好きだ。

大きな手でぐしゃぐしゃにされた自分の髪が気にならないくらい。
あんなに怒られて殴られてたのに不思議なんだけど、オレは彼が好きだった。
子供心に、これがただの好きじゃないことも気づいてたけど。



次の年の誕生日。
彼はまたオレと1日遊んでくれた。

その日の夕食が終わった後、緑のリボンが巻かれた箱をとりだして「あけて見ろよ」と笑う。
2年前よりずっと小さな小箱。
オレは期待でドキドキしながら箱をあけた。

「…チョーカー?」

「そろそろ欲しい時期だと思って」
流石だと思う。
彼のセンスがいいことは知ってたけど、ちゃんとオレ好みのデザインのシンプルなシルバー。

「お前も好きなんだろ?」
その言葉にドキッとした。
彼はただ、オレが自分と同じ趣味だろうといってるだけなのに。

好きだよ。
好き。

そのことに気づいてもらえてて嬉しかったのは確かだけど。
でもシルバーアクセが好きになったのは、彼がそれを身につけてたからだ。
彼の好きなものだからオレも好きになった。

「ありがとう…!」
「おう」
お礼を言えばにかって笑う。
「このまえも店で見てたんだろ?」
「このまえ…」

ああ。

あれは彼に似合うだろうと思ったんだ。
1年間ずっと探してた。このチョーカーみたいに、彼に贈りたかった。

でも、オレがプレゼントできるものなんて簡単に手にいれられるんだろう。
彼はオレなんかよりずっと年上で、大人で、そう思うと悲しいような悔しいような、苦しい気持ちになった。

オレはこんなにも多くのものをもらっているのにオレはそれをなにも返せないのだろうか。



12歳になってやっと、オレは決意した。



「これ!」
「ん?」
必死で見あげるオレに首をかしげる彼。

この年オレの背はぐんぐん伸びてて少しだけ彼に近づけてるような気分だった。
ダイナマイトなんて物騒な武器を使うのに白くて綺麗な、オレがピアノを覚えてからは指導者の手にもなったそれをとる。
その薬指に輪をとおした。

「…花?」
「ゆ、指輪です!」
ハルさんから教わった花の指輪。
オレは器用だから作るのは苦じゃなかったけど、この意図が伝わらないなら意味がない。

「すぐに本物をプレゼントするから、あなたのために急いで大人になるから!だから、ここはオレの指輪を予約させてくださいっ」

オレの精一杯の告白に、左手とオレの眼を交互に見て彼は笑った。



彼のことが本当に好きだ。
オレの絶対。

だから彼を幸せにすることで、オレの幸せを返せたなら。



「はぁ…」
「ランボ、そのため息うざい」

中学校の昼休み。
向かいで座ってるイーピンが紙パックのコーヒー牛乳をストローでずぞぞぞと吸いこむ。

「イーピンが冷たい」
「うるさいな。獄寺さんの誕生日からずっと頑張ってて、ちょっと見直してるんだよ?今日は誕生日だし、また今年も遊んでくれるんじゃないの?」
「うっまだなんにも誘われてない…」
「え!?」

本気で驚いてるらしいイーピンの声。
イーピンも彼に懐いてるから、応援はしてくれてるみたいだけどオレじゃまだ頼りないってダメだしの日々。
そんなイーピンでも、今日はオレが彼に相手にしてもらえる日と認識してるらしい。

「やっぱり、変?」
「…うん。獄寺さん何があってもこの日はランボのために使ってたし」
「だよ、ね」



花の指輪を送ってから1週間後、彼の薬指にはひとつのリングが輝くようになった。
どんなときもそこには同じシルバーリング。
いくらオレでもそれがどういう意味なのかなんて訊けなかった。

「オレのためにあけておく気はないってことですか?」なんて怖くて訊けないよ。
肯定されたらどうすればいいんだ。



「ね。誰?あの人!」
「綺麗!カッコイイ!」
「モデルかな!?」
クラスの女子達が外を見て騒ぎだす。
その騒ぎに男子生徒も窓際へ。
そこから誰も動かないで、ずっとざわめきあってる。

「なぁに?」
「あ、イーピンちゃん。あの門のとこの人だよ!」
動かないオレに目配せしてイーピンが窓に近づいた。

「痛っ!」
ため息をついて机に突っ伏してたオレに紙パックが飛んでくる。
投げた張本人はキッとつりあがった澄んだ瞳でオレを見ながら窓の外を指さしていた。

「…ぁ」

校門に背をあずけてるスーツの男性。
長身で銀髪で、綺麗な指でタバコを口許に運んでいる。

「獄寺氏…」

呟くとまるで聞こえたようなタイミングで彼が顔をあげて、微笑んだ。
その瞬間オレは走りだす。
教室をでるとき次の授業の教科担任とすれ違った気がするけど無視だ。

「ランボ!?授業はじまるぞ」
「先生。ランボは大切な用事で早退です」



「はぁ、は、はぁ、なっなんで…」
「授業はもういいのか?」
授業どころじゃない。
そんなこと彼だってわかってるだろうに。

「そんな訊きかた、ずるい…です」
「そりゃ悪かった」
見あげれば彼はにかっと笑う。

「ランボ。手をだせ」
「…はい」
オレの手のひらに落ちた光ひとつ。

「これ…」

急いで確かめればやっぱりからっぽの彼の左手薬指。
自分の手のひらを確認すると半年以上も彼の薬指を占領していたシルバーリングは内側に繊細な緑の装飾が施されていた。

誕生日プレゼントだ。

言われなくても認識してしまうくらいに、オレへのプレゼントはいつだって緑に包まれていて。



「早く、ここを飾るリングくれよな」



彼はやっぱり悪戯が成功した子供のようににかっと笑った。


この指は先約があるんで、悪いな

'09/5/28


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