2008

□壁に耳あり
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【かべにみみあり】Side-KYOYA



ぱたぱたぱた。

「おかえり、どこに行ってたんだい?」
応接室で仕事をしていれば開けていた窓から黄色い鳥が帰ってきた。



鳥は机の隅にとんっととまると僕を見てくちばしを鳴らす。

『ハヤトスキ!』

「…その言葉、本当にどこで覚えたのさ」

左手で顔を覆ってため息をつく。
口ではそう言ってみるけれど、僕の独り言を聞いていて覚えたことは明白だった。
忘れさせようと試みても、覚えてしまった言葉を忘れさせる方法なんて知らない。
自然に忘れてくれるのを待つほかなかった。

『ヒバリ、ヒバリ』
「なんだい?」

会話になっているかはわからないけど、つい答えてしまう。
きっと名前を呼んでくるからだ。
僕の名前なんて教えた覚えはないのだけど。

『ヒバリスキ、ハヤトスキ!』

「それ、わかって言ってるのならやめてくれないかな」

『スキスキ、ハヤトダーイスキ』

「…そんなこと言ってないよ」

睨みつけても鳥は左右に揺れて楽しそうにくちばしを鳴らすだけ。

『ハヤトスキ』
「やめてって…」

『ヒバリスキ、ナミモリ、スキ』
「!?」

聞きなれない単語を聞いた。
正確に言えばとても聞きなれた、でも目の前の鳥からは聞くことなどなかった単語。

『ナミモリスキ、ヒバリ、フウキ、ハヤト』

ゆらゆらと黄色い小さな生き物は鳴く。

『ハヤトスキ、ダイスキナミモリ、ヒバリ!』

「はっ…フ、フフフ…」

『ナミモリハヤト、スキ、ヒバリフウキ』

笑いがとまらない。
「どこで覚えたの?その言葉」
新たに覚えた言葉を、鳥はさえずる。

『スキスキダイスキ!』

その単語の羅列に込められた深い意味に気づく者はきっといない。
それを教えた本人達以外には。



「彼に、聞かれてしまったんだ…」



『ハヤト、ハヤト』
「逢いに行ってたの?」
『ダイスキ』
「そう、君も好きなの…」

オレンジのくちばしを撫でて、やっぱり笑う。



「僕もだよ」


忘れるのではなくて増やせばいいのだ

'08/9/28


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