2008

□Valentino
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【オレのお姫様へ】
(我らのプリンチペッサ/番外)



「ししし、おはよ」
「…はよ」

朝、目を覚ましたらオレのベッドにベルがいた。
よくあることだからそれは気にならないけど、オレよりさきにこの金髪王子が起きているのは珍しい。



「隼人のベッドてオレのより寝心地いいよな。オレ王子なのに」
ばたばたと掛け布団の中でベルの足が暴れているのを見ながら上半身を起こして欠伸をひとつ。

ベルの言うことはもっともだ。
この部屋の家具や服などひっくるめてオレの私物すべては、ボスが初孫を可愛がるように買い与えてくれる。
当然のようにベッドも最高級品を貰った。

オレなんかにもったいないと何度言ってもボスは聞いてくれない。
これほどの物をオレだけが使うなんておこがましいから、ベルがこれを気にいってるなら一緒に使ってかまわないと思ってる。

「でも隼人をこれ以下の質の悪いベッドで寝かせるなんてのもありえないし」
うしし、と寝転んで楽しげに笑うベルを見ながら今日は上機嫌だなと思った。

昨日などは仕事が簡単すぎてつまらなかったと半日かけて愚痴と暇つぶしにつきあっていたのだから、この豹変はよっぽどいいことでもあったのかあるいはこれからあるのか。
思っていると腕をひかれてぼすんと身体がベッドに沈んだ。

「なあ、今日がなんの日か覚えてる?」
「今日…」
一瞬の間に天地が逆転して、馬乗りになったベルが天井を背景にして笑っている。
降ってきた質問に思考をめぐらせると思いあたった日付。
「2月14日…聖ヴァレンティーノか?」
「せーかい!」

聖ヴァレンティーノは恋人達や夫婦の愛を祝う日。
愛する人への感謝を、共にすごしプレゼントやメッセージを贈ることで表現したりする。

それとベルの上機嫌がどう関係するのかわからず首を傾げた。

「それで、それがどうかしたのか?」
「オレ達の大切な日じゃん!」
あれ、そうだっけ。と首をひねっていると、オレの上から退いたベルがベッドの枕元でごそごそしだす。

「どうした」
「寝る前ここに置いたのに、ねーの」
ないないと王子が騒ぎだす前に、どこか落ちてるんじゃないかとベッドの側面から見おろせばクリーム色の絨毯の上にリボンの巻かれた小箱がひとつ。

「これか?」
「そう、それ!うしし、隼人にあげる」
楽しそうに笑ってオレの手から小箱をとりあげると乱暴に開封しはじめた。
本来もらったものなのだからオレが開けるべきなんだろうけど、ベルに常識なんて通用しない。

「ほら」
びりびりにした包装をその辺に投げ捨てて中からでてきた正方形の箱をオレの手にのせる。
一目見てアクセサリー類用の箱とわかるそれ。
朝日をあびてキラキラ光る金髪をゆらしながらベルは箱の蓋を開けた。

シンプルな指輪が朝日を反射する。
上品な造りにエメラルドの埋め込まれたそれは誇らしそうに輝きをはなっていた。



「オレは隼人のことが大好きだから、愛をこめて」

いままでの陽気な声から一転して真摯な声で指輪を手にとると、箱はベッドの端に落としてオレの左手をとる。
こんな展開予想していなかったオレは寝起きで頭の回転が鈍いことも手伝ってされるがままだ。
オレの視界で左手薬指と指輪がどんどん近づいて金属の冷たい感触にやっと実感がわいてくる。

「べ、ベル!待てよ、オレ達恋人でもなんでもないし…」
そう、ボンゴレ暗殺部隊ヴァリアーの同じ幹部で仲間。
そりゃ、こんなこと言われて嬉しいとは思う。
それでも大切な存在だけど恋人じゃない。
そもそもいきなり指輪で左手薬指とは突拍子もなさすぎるじゃないか。
そう思っての言葉にベルはむっとした顔をして指輪をもったままオレの顎をもちあげた。

不機嫌な顔が近づく。
ヤバイと思った瞬間、オレの聴覚が耳慣れた足音をひろった。

「ゔお゙ぉぉぉい!!隼人無事かぁ!?」
「隼人ちゃん、ベルこっちに来てるかしら」
「ベル…隼人を独り占めなんて許さないよ」
「…」
「スクアーロ、みんな!」
どかどかと室内に現れた幹部の面々。
寝間着のままのやつもいる。

「王子が決めたんだから隼人はオレのもん!」
ベルが子供っぽくオレに抱きついて、みんながそれを見て騒いでるのを傍観するような気持ちでいたらさらに増えた足音。
ボスだ、と思って安心して意識が扉に向かったとき視界いっぱいにベルが現れたと認識するかしないかで唇に濡れた感触。

「ゔお゙お゙おおぉぉぉ!?」
「きゃー!あらまあ!!」
「むっ!?」
「…ハレンチだ」

ベルに舐められた。

「かっ消す!!」
「あ、ボス!おちついて…うわっ」
オレが叫ぶのとベルがオレを抱きあげるのは同時だったと思う。

横抱きされた状態で窓から落下しながら、自分の部屋が爆発するのを諦めに似た気持ちで見ていた。


あのあと指輪はチェーンに通して首に下げてる

'09/2/26


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