(26巻より妄想:綱vs瓜&ナッツ→隼人) 【沢田綱吉の厄介な相棒】 「ん!?ナッツのやつ、静かだと思ったら…」 膨大な書類をひぃひぃ言いながらなんとか片付けて、やっと執務机から顔を上げたオレは毎度のことながらため息と共に眉間へ力をいれた。 そしてペンを机に転がすと足早に部屋をでる。 向かう先はいつもと同じだ。 あ、どうもこんにちは。 オレ、沢田綱吉です。 今年で24歳。数年前からイタリアンマフィア・ボンゴレファミリーの10代目ボスやってます。 最近は自分の役目に自信もついてきていい感じ。 部下もオレを認めてついてきてくれてるし。 10年つづいてる恋人との仲も、倦怠期すらなくいまだアツアツだ。 自慢だけどオレの恋人はメチャ可愛い。 すらりと伸びた均整のとれた長身に、陽に光る白銀の髪がまず人目をひく。 そして白い肌を見つめれば輝くのはエメラルドより綺麗な瞳。 人形のような整った顔立ちに冷たい印象をうけるけど、弧を描く桜色の唇は誰もを魅了する天使の笑み。 性格は聡明で純粋。まっすぐな意思は何度オレを救ってくれたことか。 そんな子が10年もずっとオレを好きでいてくれるんだよ? こんな幸せないよね。 あ、君の頼みでも彼は渡さないから。 もちろんオレは彼のことが大好きで、相思相愛なわけ。 オレ達の邪魔をする敵は容赦なく燃やすんだけど。 最近、厄介なやつが現れた。 「にょおん」 「ガオ」 「ニャ!」 「ガオッ」 「ははは、瓜ぃそれじゃいつまでたってもナッツさんに敵わないぞ」 楽しそうな恋人の声。 それは予想どおり、彼の執務室から聞こえた。 「隼人、やっぱりナッツはここに来てたんだね」 「10代目!お疲れさまです。書類の進み具合はいかがですか?」 にっこり笑って立ち上がったのが獄寺隼人。 ボンゴレ10代目の優秀な右腕にして、オレの恋人だ。 彼がいままで床にしゃがみこんで、笑顔で見つめていたのはじゃれあう2体のアニマル型匣兵器。 彼の相棒で子猫の瓜と、オレの相棒でライオンのナッツ。 こいつらはその小さくて愛らしい外見をフルに利用して彼の関心をひきまくっている。 オレの恋人は、自分から言わないけど動物が好きだ。 なんだかんだと動物番組はチェックしてるし、もちろんみんなの匣アニマルも可愛がってる。 とくにネコ科の気まぐれさと愛嬌には目がないらしい。 道端で猫を見つけようものなら必ず見つめる。 一見すると睨んでいるようにも見える瞳には、彼なりの愛情とか慈しみの感情が窺えた。 ダンボール箱にいれられた子猫なんて見つけようものなら、子猫と同じ眼をしてオレを見つめてくる。 オレは猫じゃなくて彼の滅多に拝めない悲しそうなおねだりの視線に降参するんだ。 そんな恋人だから、自分の相棒を猫に選んでからの可愛がりようもすごかった。 野良猫そのものに懐く様子のなかった瓜を笑顔で撫でてはひっかかれるなんてことの繰り返し。 生傷の増える恋人をみて瓜を敵視したオレだけど、彼が大切にしている猫を燃やすわけにはいかない。 だって彼を悲しませることはオレにはできないんだ。 そうやってオレが彼を心配して瓜に嫉妬してる間にも、彼らの信頼関係は築かれてたわけで。 いつのまにか恋人の生傷はなくなり、瓜は彼から離れなくなっていた。 いまじゃ瓜の特等席は彼の頭の上だ。 ほら、いまも彼の肩にひっついてオレを威嚇してる。 初対面でオレに飛びかかって彼に厳しく叱られて以来、瓜はこっそりとオレを睨みつけるようになった。 笑顔の恋人と正反対の表情の子猫。 オレが彼に慕われていることが本気で気にくわないらしい。 優越感で笑みをうかべると瓜の警戒の視線が強くなった。 「隼人、書類は全部片づけたんだ。少し休憩しよ?」 「はい!ではそこのソファーでおくつろぎください。いま紅茶を…」 笑顔の彼の言葉をさえぎって、そのやわらかな唇に指を滑らせる。 「一緒に、さ?」 「じゅうだ…」 意図的に眼を細めて恋人を誘った。 彼の頬が朱に染まって瞳がうっとりうるんだのを確認したとき、胸のあたりに強い衝撃。 視界は恋人から天井にきりかわって背中から床に倒れこむ。 「あだっ!?」 「10代目!?」 愛しい声を聞きながら衝撃の正体を確かめた。 いまだに胸の上にある重みは、オレと視線をあわせるように重心を移動させる。 「ガオ」 鮮やかな夕焼けのエネルギーを吸収したような瞳がじっと見つめてきた。 同じように力強い炎を身にまとう小動物。 こいつがオレの相棒。 「ナッツ…」 「ガオッ」 「ナッツさんは10代目のことが大好きですね」 にっこり笑う恋人は可愛いけど、ちょっと誤解だったりする。 返事をするように鳴いて胸元にすりよってくるナッツは、確かにオレに懐いてくれてるし戦闘でもしっかり補佐してくれる大切な相棒だ。 性格もオレに似てて意思の疎通もしやすい。 そのことで守護者達からお墨付きももらってはじめはオレも純粋に喜んでたんだけど、ひとつ問題があった。 似ていたのは性格だけじゃなく“好みのタイプ”もだったこと。 そう! ナッツはオレの恋人にベタ惚れなんだ。 瓜ともなぜか仲良くやれてるナッツは、彼にべったりくっつけるわけ。 しかも動物好きな彼がナッツを邪険にするはずもなく。 むしろ、オレの相棒だからと“ナッツさん”と呼んで敬意すら表す無防備ぶり。 ああ、恋人とすごすオレの癒やしタイムが減っていく。 「では、10代目とナッツさんは休んでいてくださいね。いま紅茶を淹れてきます」 「あ!隼人っ」 瓜を肩にぶらさげながら行ってしまう恋人。 オレが身体を起こすと人の膝にすりよってくるナッツ。 「くっ自分だけいい思いしやがって」 指で鼻先を弾いてやるとぱくっと甘噛みされた。 それからオレンジの大きな眼を細めてにたっと笑われる。 「ガオ」 絶対に楽しんでる! オレの平穏が減っていくのは気のせいじゃないはずだ '09/11/22〜'09/12/13 <<戻(はくしゅ) |