いわゆる現代小説
□祝福
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「祝福」
長薗安弘 著
小学館
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リクルート社出身の知人から、
『僕の元上司がなんだか作家になっちゃったんです』
と聞き、購読のきっかけとなった本。
2002年11月に刊行された処女作です。
兎に角、変わった作風です。読み始めてからしばらくは、呆気に取られるかもしれません。
それが作者の意図なのか、個性なのか、絶妙な手口だとも思えます。
広告代理店で働く主人公とモデルの少女・サキ一家との、ひと夏の関わり合いを描いた小説です。
サキとサキのマネージャーである母親とその父(元詩人だというサキの祖父)との、三者三様の心の葛藤があり、家族の風景が浮かびます。
年齢的にも、決して人ごととは思えない内容に、私は切ない気持ちで一気に読み進んでしまいました。
読後感。
藤沢周平小説の現代版に匹敵するかも。この一言。
切なく、重いのです。
人間の弱さ、愚かさ、醜さ、妖艶さ、儚さ、渋とさ、力強さ、そして素晴らしさを思い知らされます。
かなり欲張りな本ですね。
著者(一人称の主人公)の主観のまったく入らない文章に、様々な人間模様が織り込まれています。
凝った文章も洗練されていて、そこにセンスの良さがさり気なく垣間見え、惹かれました。
ふとした斬新な表現力には、著者の前身すらうかがえます。
ある意味、かなり個性色の強い作風なので、読み手の好みもはっきりと分かれそうな作品です。