† TREASURE †

□†『ヤキモチ、ギュ』 †
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冬の音がする…寒い昼下がり、

僕の左手には袋に入った湿布と包帯。

右肩にはトートバッグに無理やり詰められた飲み物たち。

それを持って長い廊下を歩いていた。


先日。

キュヒョナが椅子から転げて腕を怪我した。

大事にはならなかったけど、見るのも痛々しいくらいに腫れたそれ。

強がってるけど、相〜当…痛いはず。

それを心配した僕が買出しのついでに薬局に行って買ってきた、と言う訳。


長い廊下を歩いていると、そこには練習室がたくさん並んでいて。

ガラス越しに多くの練習生がレッスンに励んでいた。


「懐かしいなぁ…」


そう思って昔のことを思い出しながら眺めていると。

さっきまでの練習室のある場所とは雰囲気も、大きさも違う所まで歩いてきた。

…関係者以外、立ち入り禁止区…

どうやら眺めているうちに曲がるところを間違えたらしい。


「…………。」


…誰も見てないな??

回れ右をして戻ろうと思ったら、視線の先に見覚えのある姿を見た。


その雰囲気も、大きさも。

全く違う、

「特別な」練習室に…。


「ユノ」と「チャンミン」が居た。



今度カムバックするようで、その仕上げをしているのだろうか。

踊っている時は普段とは目の鋭さが違うユノ。

身体の奥底から声を出しているチャンミン。

防音だからか音は聞こえないけど、

ガラス越しに見えるそれは、本当に目が逸らせない。

惹きつけられる、その圧力にも似た何か。



…視線を外せない中、


「!!!」


……チャンミンが体勢を大きく崩し、

それをユノが間一髪支えた。


一瞬の出来事に、身体が震えてしまうような衝撃を受けた。

その出来事のすぐ後に。

なんて言ったかは分からない。
ただ。

ユノが厳しい表情でチャンミンを怒鳴った姿が見えた。



…休憩を挟むのだろうか。
ダンサーさんたちも散り散りになっていく。

さっきの光景が頭から離れなくて思わず練習室の扉をノックした。


「 …お疲れ様でーす」


コソッと中を伺えば

「ソンミナ!」と。

さっきまでの鋭い光を湛えた目じゃなくて、優しい光を宿したユノが居た。


「ごめんね。急に…通りがかったから…」
「いや。かまわないよ。来てくれてありがとう」


そして僕の姿を見てユノは苦笑する。


「すごい荷物だね〜」


そう言って肩のバッグを持ってくれた。


「……っ」


少しの顔の歪み。

…さっきの?


「…ねぇ、ユノ」


痛むであろう腕を指差すと


「…見てた?」


そういって苦笑いをした。

「座りなよ」と隣に招いてくれる。
一息置いてから彼はこう言った。


「今回は特に…少しでも気を抜けば怪我をしてしまう。それが、命取りになることもある…」


その真剣な目には、厳しさと。そして、優しさと。


「…チャミナには、怪我をしてほしくないから、さ」


ふわっと優しく笑う、その表情はどんな思いなのか。
分かってしまう。

そんなチャンミンは部屋の端の方でチラチラとこちらを見ている。

怒鳴られたであろう彼は気まずさから、だろうか。

謝る…話しかけるタイミングでも探してるんだろうか。

…………あ。


「…じゃあ、ユノ!帰るね?」


急に立ち上がってそう告げたら少し驚いた顔をされた。


「あぁ、…わざわざありがとう」


「ん。おだいじにね」と小声で言う。
そして、端に居る彼に


「チャミナ!ちょっと!」
「?!」


早く早く!!と手をブンブン振って。
何のことだかわからないような戸惑いの顔。

足早に僕の隣にきたチャミナに


「これ、よろしくね?」


本当はキュヒョナにあげるはずだったものを渡した。


「え?え?なに…」
「じゃっ」


…そしてふと思い出す。


「あ!!」
「???」
「……、皆さんで良ければ飲んでくださいね〜^^」


ムリヤリにバッグへ詰め込まれた飲み物たち。
床に置きっぱなしだったのを…忘れてた。ははっ。


練習室を出てちらっと振り向いたら。

ユノとチャミナ。
向き合う二人の姿。

もう、大丈夫、だね。


僕は当初の目的を思い出して、元来た道を引き返したのだった。




「…………で????」
「………………。」


…なんでキュヒョナに押し倒されているのか分からない。

床にはさっき急いで買ってきた湿布たち。

無残にもばら撒かれている。

目の前には彼の携帯。

チャミナから来たであろうメールを見せられる。


『今度ご飯に連れて行きますってミニヒョンに伝えて』


むすーっとした顔のキュヒョナ。完璧に拗ねてる。


「帰りが遅いと思ったら、チャミナと遊んできたんですか?」
「だからー…違うって。」
「っていうか、どういうことですか。これ?」


あぁ、説明しても…拗ねたまんまなんだろうなぁ…。

そんな光景が目に浮かんで思わず苦笑する。


「…今どういう状況か、わかってます?」


軽く引き攣った顔をしながら。

「ガブッ」という表現がピッタリくるくらいに唇を塞がれる。


「っ、んーっ!!!」


呼吸すら出来ない、そんなキス。
苦しくて胸をドンドン叩いても、びくともしない。

そのうち生理的な涙が出てきて。
それをペロッと舐められた。

生ぬるいその感触に、身震いがした。


「浮気なヒョンには、お仕置きです。」
「、ちょっ…待っ!!」


……心配なんて、するんじゃなかった。

そう後悔した、冬の今日この頃…。







「…だから、こういう訳なのー。分かった??」
「分かりました。けど…」
「けど???」
「俺も一緒に行きますから」
「…………。」
「拒否権はなしですよ、ヒョン」








fin.


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