ゆがむくうかん

□護りたい、
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※一部佐久間がビッチ
捏造過多




――数ヶ月前、鬼道は雷門中サッカー部に移籍した。
その事は俺達には少なからず衝撃を与えたが、特に鬼道を人一倍慕っていた佐久間の落胆ぶりは酷いもので。
精神的ショックから、弱さ故に見捨てられたという被害妄想を抱き、徐々に壊れていった。
壊れたレコードのように鬼道の名を呟き続ける佐久間が、見ていて痛かった。

「お前がそんな風にしてると、辛い。…頼むから、笑ってくれよ…」

「…鬼道。鬼道、鬼道、」
俺は佐久間をずっと抱き締めていたが、俺の体温は1℃も佐久間には伝わらなかった。

佐久間は精神を病み、食事も睡眠も摂らなくなった(無理に食べさせようとすると暴れるため手がつけられないのだ)。

俺は間違いなく、鬼道に劣っている。

佐久間にとってあいつの存在は絶対で、かけがえのないものだ。
その点俺は佐久間の眼中にはいないのだろう。そう思っていた。
抱いていた気持ちをひた隠しにして。

――不動が病室に侵入してくる前夜、俺は佐久間に襲われかけた。
といっても、掴みかかられ殴られたわけじゃない。
目に涙を溜めた佐久間は俺に馬乗りになり、服をはだけ褐色の肌をあらわにしていたのだ。
…まさか、と淡い期待もあったが、それが壊されるだろう事は佐久間の精神状態からして明白だった。(その時の俺は、壊れつつある佐久間の妖艶さと驚きで頭を埋められて気付かなかったが)

「寂しいんだ」

瞬きするたびに、涙が溢れて、落ちる。

「誰かと繋がってないと、押し潰されて壊されて死にそうなんだ、なあ、満たしてくれよ」

…こいつが求めているのは俺じゃない。
俺じゃなくても、拠り所になるなら誰でもいいのだ。
俺はずっと前から…おそらく誰よりも、佐久間の事を見てきたという自信がある。
わかっている、そんな事は佐久間の気持ちには全く作用しない。俺がどれだけ佐久間を想っていようとあいつはそんな事知らないからだ。
でも、あんな理由で佐久間に求められるのは――嫌だった。
それに、ここで佐久間を抱きしめたら、俺も佐久間も堕落してしまいそうな気がしたから。
この手で佐久間に触れ、抱きしめる感覚に溺れてしまいそうな気がしたから。
だから拒絶した。

「ごめんなさい」

ベッドから降ろすと、佐久間は冷たい床にぺたんと座り込み、震える声で謝った。

「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしないから、だから、きらいにならないで、すてないで」

がたがたと身体を震わせ、頭を抱えて、ボロボロと涙を流す佐久間は、とても見ていられたものじゃなかった。

どうして、いつからこうなってしまったんだろう。

なあ鬼道――なぜ雷門に行ったのかは知らないが、
お前がそうしたせいで佐久間がどれだけ辛かったと思う?
それにどんな理由があろうと、佐久間が潰れてしまったというのは事実だ。

だから、俺はお前を絶対に赦しはしない。
俺なら、佐久間を泣かせたりなんて、絶対にしない。だから、今度こそこの手で守る。
そう決めた。



あの一件で完全に壊れてしまったらしい佐久間は、真帝国に行ってからというもの誰彼構わず身体を開くようになった。
俺はそれを最初から知っていたわけじゃない。ただ、練習中に突然佐久間がふらりとどこかへ行くのは気になっていたから、後を追ったのだ。
佐久間は医務室にいた。
医務室から、佐久間の声が聞こえてきたからすぐに分かった。
ドアのむこうから聞こえてきたのは、形容しがたい卑猥な水音。
真帝国に連れてこられた他の誰かの興奮した声。
おそらく佐久間のものだろう、艶かしい、喘ぎ。

「――――――ッ…!!」

…俺の声にならない叫びは佐久間には届かなかっただろう。
どこの誰ともわからない奴が、俺が越えられなかった一線を軽々と越えてしまったのだ。やり方が間違っているとはいえ。
扉の向こうの佐久間は、嫌だとも止めろとも言わない。
ただ与えられる快感に悦ぶだけだ。

――守れないじゃないか、守るって決めたのに。

俺は自分の無力さを悔いた。しかし、ここで阻止したら佐久間は拠り所を失って身動きがとれなくなる。
今の佐久間は何かに依存しなければ生きていけないのだ。
鬼道に対する怒りは募るばかりだった。
佐久間がここまで堕落してしまった原因の一端はあいつにあるからだ。
帝国を去った理由が自分達にあるというなら、それを隠さないで欲しかった。そうすれば佐久間だってもっとマシな精神状態でいられたかもしれないのに。
それでも俺はただ絶対的な力、ただそれだけを欲した。
それがあれば、今度こそ佐久間を守ってやれると思っていたから。
誰にも、指一本、佐久間に触れさせはしないと。
――結局はそう思っていた俺でさえ、佐久間と同じように堕落していたのだと気付くのには、相当時間がかかった。

正直少しだけ、安心した。
堕ちてしまった俺達はまだ、戻ってこられる位置にいたのだという事に。
誰か他の奴に依存していたのは、俺も同じだったのかもしれない…な。
堕ちていくだけのその暗闇から俺達を引き上げてくれたのは――やはり。
あいつだった。




「すまないな、源田」

あれから数ヶ月。難しいといわれていた手術が無事成功し、傷も大方治って来ると、それまで別々の集中治療室にいた俺と佐久間は再び相部屋になった。
足がまだ治りきってはいない佐久間は、ベッドから身体を起こし、悲しげな顔をして謝った。
真帝国を出てからというもの、佐久間はまだ心からの笑顔を見せてはくれない。
遠慮しているかのような、弱々しい、悲しげな笑顔だけだ。

「…なんで謝る」

「なんでって…お前には迷惑かけただろ?…色々」

「…………」

「俺は自分の事ばかりだった。あの時だって、お前の気持ちも知らないで変な事言って…」

「……お前は悪くないよ」

誰が悪いかなんて、俺にも解らない。いや、もしかしたら誰も悪くなんかないのかもしれない。
許せない奴なら、いる。だが、そいつらは佐久間が精神に異常をきたした理由にはならないからだ。
――いや、強いて言えば、

「悪いのは俺だ。でも、あの時…拒絶するしかなかった。でも、そのせいで佐久間は、」

「真帝国にいた間に、誰彼構わず…毎日違う選手相手に尻振ってさ…あの時の俺は気がおかしくなってた様だから、気持ちよくなかったって言えば嘘になる。ただ…虚しかった。本当の意味で満たされる事はなかった」

予想外だったそれを聞いた俺の表情は、少なくとも無表情ではなかった筈だ。
あの偽りの帝国の中で、佐久間も俺と同じように苦しんでいたのだ。

「最終的には、なんでこんな事してるのかすらわからなくなって、…汚れたのかな、俺」

「汚れてない。……とは、言い切れない…な」

「………」

「でも、佐久間はそこから立ち直ろうとしている。そのままずるずる堕落していくよりは、ずっとマシだと思うぞ」

「………源田、」

俺はベッドから降りると、佐久間の細い身体を、怪我に響かないように優しく抱き締め、綺麗な髪を鋤いてやった。

「大丈夫だ。佐久間はもう、苦しまなくていい。悲しまなくていい。そうならないように……俺が見てるよ」

「――――!」

佐久間は思い出しているんだろう。
以前、同じ事をされた時を。
小さい身体が震える。

「…駄目だな、俺。ずっと近くで心配してくれてた奴に今更気付くなんて」

「…気付いてくれただけで嬉しい」

「有難うな、源田。手がかかる奴だろう」

「いや、佐久間の為だと思えばなんでもない」

そう言って頭を撫でてやると、「真顔で恥ずかしい事を言う奴だな…」と佐久間が俺から目を反らして頬を赤らめた。
それが可愛くてついその気持ちを言葉に出してしまうと、佐久間は慌てたように「可愛いとか言うなっ!」と突っぱねた。可愛い。

佐久間の心の闇は完全に消えたわけではないだろう。しかし、二度と表には表れない筈だ。本当に鬼道に裏切られない限りは(可能性すらありもしないが)。

誰かに与えられた力ではない。今度こそ自分の力で、二度と壊れないように佐久間を守っていかなければと、俺は強く決意した。



END


タイトルこれしかないと思いました^0^
源田が真帝国に行った理由を突き詰めて考えていったらこうなりましたすいません
正直オチに自信がない…!アドバイス等あれば嬉しいです><




2010 02/12
 

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