ゆがむくうかん

□笑った顔も怒った顔も泣いた顔も全部好きなんだ
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汗でべたべたのユニフォームを脱がせて(服の下もやはり細かった)体を拭き、タンスから適当に引っ張り出したYシャツを着せて俺の部屋のベッドに寝かせた。
佐久間が目が覚める気配はまだなく、寝息すらたてず死んだように眠っている。佐久間の家から本人が帰ってこない事で連絡網が回っているのか、成神から連絡をうけた。

『―――で、佐久間先輩はそっちにいるんですね?』

「ああ、俺が運んできた」

『先輩、最近疲れ気味っぽかったから、大丈夫ですかって訊いても平気だって答えるだけで』

「……そう、か」

俺にはそんなふうに見えなかったし、大丈夫かと訊いても「お前に心配される筋合いはない」とか言われかねない(というか、まともに相手されてないのは俺だけじゃないのか)。

『源田先輩には、なんにも言わなかったんですか』

「いや…俺、あいつに嫌われてるみたいだ。相手にされてないっつうか」

『………。あー、多分それって、』

成神が言いかけた時、俺の視界のすみで、もぞもぞとベッドのシーツが動くのが見えた。

「っと、佐久間が起きたみたいだ。またな、成神」

『ってちょ、せんぱ』

がちゃり、と受話器を置いて、俺はベッドから身を起こした佐久間に話しかけた。

「大丈夫か?お前、練習中に倒れたんだぞ」

「…………」

「最近疲れ気味だって成神から聞いた。前からあんなに遅くまで練習してたのか?」

「………ぃ」

「もし体調崩したらどうするんだ、お前は、」

「―――うるさい!」

テレビも何もついていない無音の部屋に、瞬間的な佐久間の怒号が響いた。
こっちを見るその目つきには、明らかな敵意。
それは、チームメイトに対して向けるものではないもので(教えてくれ、俺が何をしたっていうんだ)。

「それは、なんだよ」

「なんだ、って」

「哀れみか、じゃなかったら同情かよ」

「なんだよそれ、そんなわけないだろ!俺はただ――」

「っ触んな!」

ぱしん、と、佐久間に触れようとした俺の手ははね除けられた。
そしてぶつけてくる、敵意からの攻撃的な視線。

完全に拒絶されている。

まただ。

胸が、痛い、

「お前に俺の気持ちがわかんのかよ…いくら練習したって、あの人に追いつけない俺の気持ちが―――あの人の右腕みたいな立ち位置にいるお前に」

「…!」

そうか――こいつの俺に対する当たりの悪さは、鬼道を慕う故の嫉妬心からきていたわけか。
謎がひとつとけた。
だったら、俺のこの胸の痛みはなんなんだ。
俺にとってこいつ、は。
女みたいに細くて。
でも強くて、チームにはなくてはならない存在で。

「人の気持ちが簡単にわかるほど器用じゃないよ、俺は」

「だったらなんで、こんな……ほっとけばよかっただろ、俺なんて!」

「ほっとけるかよバカ!お前に倒れられたら困るんだよ!」

「困るって…試合に勝てなくなるからかよ?」

「否定はしない。だけどそれよりもずっと――お前が心配だからだよ!」

――言って、気付いた。
こいつは、恐らく誰よりも、弱い。
強いのなんて、実力面の話で、本当は誰かが居てやらないと駄目なんだ。
だから。

「…っ…なんでお前に、」

「お前がどう思うかなんて関係ない、俺が勝手にお前を心配してるだけだ」

「…………」

「だから、一人で抱え込んだり無茶したりするのはやめろ。…何かあったら、俺がなんとかしてやる」

それから、俺は特になにも考えずに、佐久間を引き寄せて、ぎゅっと抱き締めていた。
抵抗はしてこなかった。

(…さすがにクサすぎたかな)

それに相手は同性だし、(なんで俺はこんな事を)と思っていたが、佐久間には効果があったようで。

「……んで、」

ぽつりと、滲んだ声。

「なんで、お前、は」

強く抱き締めた小さい肩が、震えている。
顔が見えなくても、泣いているのがはっきりとわかった。
泣き顔は見せたくないんだろう。俺は佐久間の頭を自分の胸に埋めた。

「こんなにも、俺の中に、入ってくるん、だ」

「………佐久間、」

「嫌いだ、お前なんて」

それは強がりにすぎない、意味のない言葉だった。
嫌いなら、突き飛ばせばいい。さっきみたいに睨み付けて拒絶すればいい。
だけど嫌いだと言いながら、佐久間は俺からは離れずに泣き続けた。
俺が守ってやらなきゃ。
そう、心の中で決意した。

――ああ、そうか。

プライドが高くて、そのくせ折れそうなほど弱い。
俺はそんな佐久間が、

「お前が嫌いでも、俺は好きだ」

そうだ。好きなんだ。
友好でも愛着でもない複雑な意味で。

だから嫌いなんだ馬鹿野郎、と俺の背中に手を回して佐久間はまた強がった。
それがかわいくて。俺は泣き止むまで佐久間の頭をずっと撫でていた。



泣き止んだあと、まだ目を真っ赤に泣き腫らした佐久間を制服に着替えさせて(その際佐久間が着ていたYシャツについてみっちり質問された)、家まで送っていく事にした。
あのあとから、俺に対する佐久間の態度はかなり丸くなっていて、敵意から睨まれる事もきつく当たられる事もなくなった。
今の流行りでいえば、所謂ツンデレ系ってやつなんじゃないかと思う。

「ほら、家ついたぞ」

「あ、ああ」

「じゃあな、また明日な」

「ちょ、待てよ」

「なんだよ、まだ何か―――」


ぎゅっ、と佐久間の小さい手が俺の服を掴んで、引っ張った。
ふわり、と。
流れるような銀髪が舞って。
視界いっぱいに、佐久間の真っ赤な顔が広がって。

俺の唇に、柔らかい感触が―――

「っ!おま…っ」

キス、された。
あの佐久間に。
唇への悪戯のせいで脳ミソがシャッフル状態だ。

「俺の事嫌いなんじゃなかったのかよ!」

いや強がりだってわかってたけど!
すると佐久間は俺から離れて、すぅ、と息を吸った。
そして、一喝。

「無理すんなよって言われて頭撫でられて惚れたんだよ!単純で悪かったなばーか!!」

「なっ!」

言うだけ言って、べーっと舌を出したあと、佐久間は家の中に逃げ込んだ。

つうか…普通に反則だろ。

(明日どんな顔で会えばいいんだよ…っ)

連絡網が回ってきた際に成神から鬼道が一番佐久間を心配していたと聞いて、あいつが目を覚ましたら言おうと思っていたが、いつの間にか記憶からは消えていた。



笑った顔も怒った顔も泣いた顔も全部好きなんだ
(だから全部、抱きしめていいですか)



end


あとがき
ものの三日で完成させました。はー…疲れた…
アニメ38話の佐久→鬼的なセリフを聞いてから妄想がむらむらと(嫌な言い方)わき上がってきて形になりました、まる
にしてはなんというかgdgdですね…!


2009 09/26
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