ゆがむくうかん

□白い猫には純粋な幸福を、
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豪円。



ぴったり。
という表現が一番に似合うほどに、円堂は豪炎寺の首に腕を絡ませてぎゅっと密着していた。
外からは窓を通って風が入り込んでくる。季節は、もうすぐ夏だ。

「円堂、暑苦しい。離れろ」

そのうえ場所は部屋のベッドのため狭苦しいのか、豪炎寺は円堂の頭をぐいっと遠ざけた。むぁー、と不機嫌な声。

「別にいいじゃんか!俺がしたいからするんだよっ」

そうしてまた一度引き離された体をぴったりとくっつけてくる。
別に風が部屋に入ってくるから暑苦しい事はないし、円堂がこうしてくっついてくるのも豪炎寺は嫌ではない。
ただベッドの上でそういう事をされると、辛抱できなくなって襲うかもしれないというただそれだけだ。
しかし二人はまだそんな経験をした事はない(いつかはいきつくのかもしれないけれど)。
今こうしてベッドに寝てるのだって、ただの休憩と同じ意味なのだ。

「んー、」

わずかに首を伸ばして、円堂は豪炎寺の唇に触れるだけのキスをする。
ちゅ、ちゅ、と音をたててそれを何度か繰り返して、また離れる。

「修也ー」

なぜかいきなり下の名前で呼ばれた。

「こうすると相手はびっくりするって、一之瀬が」

あいつか…、豪炎寺は円堂が周囲からたびたびそういう知識を貰ってくる事に嘆息した。
特に一之瀬は既に誰かと(誰かは、自分は知らないが)体を重ねる仲にあるらしく、経験者の立場で恋愛のイロハとやらを円堂に吹き込むらしい。

「…他には、どんな事を」
「ん――と、」

あ、と円堂は思い出したような声をあげて、もそもそとベッドから起き上がった。

「…?」

豪炎寺はしばらく円堂の挙動を見ていた。
が、最初こそなんの反応も示さなかった彼の顔は次第にひきつっていく。
ベッドから起き上がった円堂は、そのまま手を動かし足を動かし―――豪炎寺の上にまたがっていたからだ。
それからぎこちなく眉をハの字にして、これまたぎこちなく言う(おそらくは一之瀬から教えてもらったのだろう)。

「修也―――しよ?」

「………」

――なんて事を教えてるんだ…ッ

心の中で一之瀬に毒づきながら、でも豪炎寺は円堂から目をそらせなかった。
目の前の円堂はどこかいつもと違っていて。
つい揺らいでしまいそうになった。
誰にも触れられていない綺麗な存在を――穢してしまいそうになる。

「―――円堂、」

「でもさあ」

それに触れようとする前に、円堂が口を開いた。

「しよ、って、具体的に何すんだろうな?」

――意味も分からずに言っていたのか!
豪炎寺は呑気に笑う円堂の下で手の平で顔を覆った。何もしらない無垢な存在だったのだ、彼は。

「なぁ、豪炎寺は知ってるか?」

呼び方も元に戻した彼は、馬乗りになったまま聞いてくる。

「…キスより先の事」

「きすよりさきの…?」

意味がわからない、と言ったような反芻。
今それを教えた所で、円堂の頭で理解できるだろうか。
いや、無理だろう…。

「詳しい事は俺にもわからないけどな」

「ふーん…」

納得したように呟く円堂の唇に、今度は自分からキスをする。
頬にも、額、それから―――首筋にも。

「っはは…くすぐってーよ」

屈託なく笑う円堂に、豪炎寺は今はこれでいいのだと思った。

後日、円堂とは古くからの付き合いらしい風丸から聞いた話によれば、円堂は保健体育のそういった事に関する授業は居眠りしていて聞いていなかったのだそうだ。



end


●あとがき
ピュアっこ円堂!
趣味詰め込ませていただきました^p^
円堂が人として男として知識を身に付けるまで耐えろ豪炎寺、といった所でしょうか!


2009 06/27
 

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