兄神

□手が冷たい人は
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 阿伏兎は神威の真っ白な手を取った。冷たい手だった。

「団長、手冷てぇな
 確か地球の江戸ー・・・この間行った所では
 手が冷たいやつは心が暖かいって言うんだってな」

 アンタは絶対違うだろう、と言おうとしていた阿伏兎だったが、神威の表情を見て止まった。
 いつになく真剣な顔つきでつながれた手を見ていたのだ。





 手 が 冷 た い 人 は





「ねぇあぶとぉ」

 感情も何も注がれていないような笑顔で言葉を発したこの青年(青年といっても年齢不詳なのだが)は、夜兎族の生き残りで、宇宙最強の掃除屋、星海坊主の息子の神威である。
 真っ白な肌の色と可愛らしい桃色の髪の毛をもっているくせに全く可愛げがない。いや、そう思うのは神威のことを良く知っている者だけかもしれない。
 そう思っている中の一人、今神威に声を掛けられた阿伏兎は、できるだけ神威の言葉には答えたくなかったが(いつもどうでもいい内容の話か面倒くさい話なのだ)、後が怖いので答える事にした。

「なんだ団長
 俺は今忙しいんだけどな、」

「ちょっと笑って」

 まて、俺の言ったことは無視か。阿伏兎がそんなことをおもっているのを神威は知る由も……いや、しようとはしないだろう。しかし、忙しいと言ったのはもちろん嘘であるから阿伏兎は特に気にする事はなかった。(いつものことでもあるが)
 いいや、そんなことよりも、だ。
 この中年に向かって神威は笑って、と言ったのである。阿伏兎はもちろん肝を抜かれたような顔をしている。

「は、何言って、」

 神威は相変わらずどこを見ているのかわからないような顔でニコニコと笑って阿伏兎を見つめている。そしてもう一度「笑って」とさっきよりもなんらかのオーラ(どちらかというと悪い方だ)を強くして言った。
 わけがわからないままニカッという擬音がついているように笑う阿伏兎。
 それを見た神威は、少しだけ笑顔をゆがめて(これも悪い方へ、だ)阿伏兎に一言放った。

「気持ち悪い」

 なんだこの仕打ちは。阿伏兎ではなくてもこう思っただろう。確実に。
 というか、これはなんだ。男二人が向かい合って笑っている。片方はなんの感情もない笑み。片方は気持ち悪い笑み。誰かがこれを見たらすぐに逃げ出すかその場に立ち尽くすかのどちらかだろう。もしかしたら110番をする人もいるかもしれない。

「じゃあ今度は俺の手握ってくれない?」

 今度こそ阿伏兎は腰を抜かした。前々からおかしいやつだとは思っていたがここまでおかしいかったとは。そう思いながらも背中を冷たいものが伝うのがわかった。反射的に体を後ろに持っていく。
 しかし目の前では傘を構え始めた上司(年下)。

「とりあえず傘おろしてくれ」

 背中に冷たいものが伝っているのを感じながらも覚悟を決めて前に進んでいく。
 そして、神威の真っ白な手を取った。冷たい手だった。

「団長、手冷てぇな
 確か地球の江戸ー・・・この間行った所では
 手が冷たいやつは心が暖かいって言うんだってな」

 アンタは絶対違うだろう、と言おうとしていた阿伏兎だったが、神威の表情を見て止まった。
 いつになく真剣な顔つきでつながれた手を見ていたのだ。
 
 1分ほど沈黙が続いた。
 先に口を開いたのは神威だった。

「手放してよ 気持ち悪い」

「っいい加減にしろォォォォ!!このすっとこどっこい!」

 さすがの阿伏兎でも、今回ばかりは切れた。
 さっきの沈黙を消させるほどの怒声であった。宇宙規模でもこの怒声に勝てるものはいないのではないかと思えるほどの大きさだった。(いや、真選組の土方がいるか)

「うるさいなぁ
 阿伏兎が笑っても手つないでも気持ち悪いだけじゃん」

「じゃあなんでやれって言ったんだ!?」

 このマイペースぶりは宇宙規模でも勝てるものはいないのではないだろうか。(いや、真選組の沖田がいるか)(同じような事をさっき言った気がするのはきのせいだ)

「アイツが笑ったり手つないだりするとなんかさ、
 暖かくなったんだよね
 誰でもそうなのかな、って思ったけど
 阿伏兎だと殺意が沸いたよ」

 阿伏兎は最初聞いているうちは呆気に取られていたがだんだんあとの方になるにつれまた背中に冷たいものが流れていくのをかんじた。
 目の前にいる神威は、傘を構えている。いつもの笑顔で。
 これは本気だ、とかんじた阿伏兎はすぐに立ち上がって全速力でその場から走って逃げた。
 しかし、神威は追いかけていかなかった。

(はは、殺す気なんてないのに。
 殺す気があったらもっと早くに殺してるよ。)

(でも、阿伏兎まであんなこと言うとは思わなかったよ)



 『兄ちゃん、兄ちゃんの手冷たいアル!』

 『んー?そう?神楽の手はすごくあったかい』

 『手が冷たい人ってネ、心があったかいんだって!』

 『誰がいったんだか知らないけどそんなの嘘だよ』

 『何でヨ?』

 『だって俺は心があったかくなんかないよ
  それに神楽の手はあったかいじゃん』

 『私は特別アル!
  兄ちゃんは絶対心があったかいはずヨ!
  だって私兄ちゃんのこと大好きだもん!
  私は心があったかくない人好きにならないヨ!』

 『……おもしろいこと言うね、神楽は』

 『おもしろくなんかないアル
 でもネ、兄ちゃんの心があったかくなくても、
 私は兄ちゃんのこと大好きヨ!』

 (言ってる事、ぐちゃぐちゃ。 でも、)



 神威の顔つきは、心なしか普段よりも優しい感じがした。
 目は、閉じていた。
 まぶたの裏に移っているのは、髪の毛が神威と同じ色をした小さい女の子。
 いつも、神威の後ろを笑いながら、泣きながらついてきてた女の子。
 懐かしい思い出が頭の中をかけめぐる。
 

(大きくなってたなぁ、神楽)

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