兄神

□遭遇
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 ある雨の日の朝。
 瓶底メガネの少女、神楽が珍しく学校に遅刻しなくて、ぎりぎりの時間でもなく、余裕を持って学校までも道のりを歩いていたときに、自分と同じ髪の色の男を見つけた。
 何年も会っていなくて、容姿は変わっていたが自分と同じ髪の色、という特徴ですぐにわかる。
 
 それは、神楽の憎むべき相手、兄の神威だった。
 
 目の前にいて嫌でも目が合う。見なかったことにしてすぐにその場を立ち去りたかった。神威はずっと神楽を見つめていた。神楽も神威も立ち止まった。もちろん、感動の再会などするはずもない。
 何時間にも思えるたった数秒の沈黙。
 先に口を開いたのは神楽だった。

「何でお前がここにいるアルカ」

 そう言われた神威はすぐには答えず、ずっとにこにこと笑っていた。昔は持っていなかった、貼り付けたような笑顔。神楽がこの笑顔を嫌いになるのにはそう時間は要らなかった。
 時間をたっぷりととった後に神威は口を開いた。

「神楽が此処にいるって聞いてね」

「何で今頃来るアルカ」

 時間を取らずに神威が言った瞬間に神楽は返した。
 神威は笑顔を剥がさないでじっと神楽を見ていた。一方神楽は、神威のほうから目をそらし顔を下に下げた。神威に表情を読み取られないために。

「お前は、ずっと前に、私、を、」

 途切れ途切れに話す神楽。声はだんだんかすれていき(涙声にもなっていた)言葉は続かなかった。
 一瞬神威は笑顔を剥がした。しかしそれはほんの一瞬で、神楽は下を向いていたため気づかなかった。
 
 ふわっ、と神楽の髪に神威がさわった。触られた瞬間に神楽は顔を上げる。

「あの時は神楽、お前は弱かっただろ?
 強くなっているんだったら連れて行ってあげる」

 神威は神楽に手を差し出した。神楽は神威が自分の知っている昔の笑顔に戻った気がして、その手を取ろうとした。
 その時神楽には2つのことが頭に流れ込んできた。

 

 1つ目は、昔の神楽と昔の神威がいるところだ。自分が住んでいたところだ。
 神楽が泣いて神威の洋服の裾を引っ張っていた。
 「兄ちゃん、行かないでヨ」涙声で神楽が喋っている。「こんなところにいたるだけ時間の無駄だ」冷たい声で神威が言い放つ。神楽は怖いと思ったのだろうが、神威のことを離さなかった。「じゃあ、私も連れて行ってヨ」先程よりもっと顔がぐしょぐしょに涙で濡れていた。「弱いやつには用はないよ」神威は先程よりももっと冷たく、とげのある声で、そしてその声と同じような鋭い目つきで神楽に言い、神楽の手を振り払い、遠くに歩いていった。神楽は固まったようにその場を離れられなかった。



 2つ目は、この銀魂高校だ。銀魂高校の中の自分がいる3年Z組。
 国語の授業中か朝か放課後のHRかはわからないが教卓には銀八がいる。クラスには全員そろっている。神楽は沖田と隣の席で、沖田に弁当の中身を取られるのを必死で守っていた。
 みんなでワイワイ騒ぎ、銀八はそんなこと気にせずにジャンプを呼んでいる。
 例外なく、みんな暖かい表情をしていた。


 
 その頭に流れてきたものを見たとき、神楽は神威から手を引っ込めた。
 自分が、一番居たいところがわかったのだ。

「私は、ここからどこにも行かないアル」
 
 それを聞いた神威は、また笑顔が貼り付けたようなものに変わった。神楽はそれに気がついたようだが、全く気にする素振りをみせなかった。

「親父が言ってた通りだ
 随分ここを気に入っている様だね?」

 神楽はじっと神威を見つめていた。同じように神威も神楽をじっと見つめている。
 こくん、と神楽は少し頷いた。
 そして、神楽は神威が貼り付けたような笑みからいたずらな笑みに変わったのを見逃さなかった。背中に冷たい汗が流れるのがわかった。この笑みが、一番性質(たち)が悪いのを神楽は知っていたからだ。

「やっぱりね
 こうなるだろうってことはわかってたよ」

 本来ならば、神威はすぐに此処を立ち去っただろう。いや、神威ではない人だったらこの場を立ち去っただろう。
 あのいたずらな笑みを、神楽は忘れていなかった。忘れていなかったというより、神威は現在進行形でそのいたずらな笑みをしている。
 
 嫌な予感は、的中した。

「俺も今日から銀魂高校に入ったから
 確か、3年Z組だったかな?」

 嫌な予感が的中したどころか、もっと大変なことになった。
 同じ、クラスだなんて。
 神楽は長い事そのまま呆然と立っていた。神威もいたずらな笑みをしながらずっとそこに立っている。
 
 キーンコーンカーンコーン
 早くに来たはずなのに、いつのまにか時間は沢山すぎていたようだ。
 折角早くに着たのに、遅刻になってしまうわけである。
 神楽は我に返り、神威を睨みつけて口をあけた。

「お前のせいで遅刻になってしまうアル!!!!」

 思いっきり叫んだあと神楽は銀魂高校めがけて走って行った。


(面白そうだな 銀魂高校3年Z組)


 神威がそう思っていたなんて、神楽には知る由もなかった。







end?


補足
 原作と同じような過去設定です
  
  神威が家出(神楽が止めるけど突き放される。星海坊主との殺し合いとかは無し)
   ↓
  神楽が留学
   ↓
  神威が帰ってくるけど神楽が居ない。星海坊主に神楽の居場所を聞く
   ↓
  神楽と神威が遭遇(この話)
   ↓
  神威銀魂高校入学

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