兄神

□約束
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「わたしネ、大きくなったら兄ちゃんのお嫁さんになるアル」

 散歩には適していない年中暗い道を神楽と神威は肩を並べて歩いていた。
 母親に散歩でもしてきなさい、と言われ神楽と神威はこの道を歩いていたのだ。
 ずっと2人は何かと他愛も無い話をしていたのだが、神楽が唐突にこんなことを言い出したのだ。

「俺は強いやつにしか興味は無いよ?」

 少し神楽がいった言葉の返事には適していない言葉が返ってきた。
 ニコニコと微笑みながら神楽の顔を見る神威と、じぃっと神威の顔を見る神楽。(このときはまだ殺意をもって笑っていたわけではない)
 
「じゃあ、強くなったらお嫁さんにしてくれるアルカ?」

 疑問視に疑問視で返すのは少しおかしいのではないか、という考えは2人には無い。
 神楽は神威を見上げて小首をかしげている。それを見た人は誰でも可愛い、と思ってしまう仕草だ。
 それを見て、神威は元々笑っていた顔をもっと緩ませた。
 そんなことに神楽は気がつくわけも無く、真剣な眼差しで神威をじっと見ている。

「でも神楽、兄妹は結婚できないんだよ」

 神威は当たり前のことを当たり前のように言ったが、神楽はそれを聞いて歩いていた足を止め、顔を下に向けた。神威それに釣られて止まる。
 急に止まった神楽と同じ目線にあわせるようにして神威がしゃがんで顔を覗きこむと、案の定神楽は落ち込んでいる顔つきをしている。

「わたし、兄ちゃんのお嫁さんになれないアルカ?」

 ぽたぽた、と神楽の顔の真下にあるコンクリートの一部が濡れていった。
 泣いていたのだ。
 それを見た神威は、焦っていない。

「そんなことで泣いてちゃ、俺のお嫁さんは務まらないよ?」

 また疑問視に疑問視で返している。そして、話が少し食い違っているようだが、この兄妹にとっては全然食い違っていないようだ。

「お嫁さん、なれるアルカ?」

 神楽は目が濡れているまま神威を見上げた。神威はやっぱりというべきか、ニコニコと微笑んでいる。
 そして神威は、神楽の顔に手をやり、涙をぬぐう。


「神楽が望むことは、なんでもしてあげるよ」


 「ほら」と神威は言って神楽に小指を出した。神楽もその小指に自分の小指を絡ませ、神威はゆーびきーりげーんまーん、と言う。
 その行動で神楽も顔に笑顔が咲き、神威に「兄ちゃん大好きヨ」と一言言ってまた歩き始めようとした。
 神威はその神楽の言葉を聞いてもっと顔が緩む。歩き始めようとしていた神楽の手を取り、2人で家に向かった。







end

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