鰤二次文(短編)
□†紅葉の庭
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秋の日中。
緑の庭園であざやかな彩を誇る紅の枝。
隊首羽織の白さが時折舞い落ちる紅葉の紅(あか)をさらに際立たせる。
門の方から近付いてくる霊圧に、白哉は見上げていた紅葉からそちらへ視線を向けた。
「兄様、こちらでしたか。」
ルキアが傍まで歩み寄り軽く一礼した。
「こんな刻限にどうした?」
昼日中に邸に姿を見せたルキアに白哉が訊ねる。
「はい…所用がありまして。」
言いながらルキアは懐から書状を取り出し白哉に差し出す。
「途中で出会った恋次…いえ、阿散井副隊長よりこれを預かって参りました。」
白哉は受け取った書状を開き目を通すと元通りに畳みそのまま袂へ入れた。
「恋次め、お前に使い走りをさせたのか。」
白哉が微かに眉をひそめるのを見たルキアは慌てて恋次の弁護に廻る。
「お言葉ですが、私はただの一隊員です。他の隊とは云え副隊長の指示に従うのは当然です。」
白哉は答えず、再び紅葉の葉に瞳を向けた。
「綺麗に色付きましたね。」
ルキアもつられて紅葉の木を見上げる。
真紅の葉を見つめたまま白哉は口を開いた。
「今日気付かなければ見逃すところであったが・・・この木に呼ばれたようだ。」
庭の四季を随分長い間目にしていなかった気がする。
・・・かつて、私が自身の心の中で道を見失ったのはそのせいか? ―――
「私はこれから隊舎へ戻らねばならないし、お前もそうだろうが・・・暫しここで紅葉狩りをせぬか、ルキア。」
「私と・・・よろしいのですか、兄様?喜んで!」
ルキアの目が驚きに見開かれた。
白哉はその紫色の瞳に、血の繋がりを改めて気付かされる。
それを護ったのは私ではなくあの死神代行の小僧だった。
――― ならば、二度と道を違わぬよう、私を導くお前の手を思い出さなければならないな。
この庭の四季の移ろいを私達の妹と共に眺めながら。
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お前は笑うか、緋真?
未だに私が・・・昨日よりも更にお前を愛おしく思える事を。
fin
→ あとがき