鰤二次文(短編)

□†過去と未来との交錯
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廊下から部屋の障子越しに声が掛かった。
「ルキア様。白哉様がお呼びでございます。」
それに返事をすると、ルキアはすぐに白哉の部屋へ向かった。

「兄様、お呼びでございますか?」
ルキアの声に返事はすぐにあった。
「ルキアか、中に入れ。」
失礼しますと挨拶をしてルキアは部屋に入った。
白哉は珍しく死覇装ではない着物に身を包んでいる。
だがそれはルキアも同じで、今日は珍しく二人の休務日が重なったのだ。

白哉の前に座ったルキアはいつものように少し緊張した。

白哉が畳の上を滑らせ、手よりも少し大きな平たい箱をルキアの膝前に置く。

「ルキア、今日はお前が朽木家の養子となった日だったな。それを記念してこれを贈る。」

白哉がそんな事をするのは、ルキアが朽木家に来て初めてだった。

「兄様がわざわざ私に・・・あ、ありがとうございます!」
ルキアは思いも寄らない事に顔を真っ赤にして頭を下げた。

「あの、開けてみてもよろしいでしょうか?」
白哉が頷くのを確認するとルキアは箱を手に取り上蓋をそっと開けた。
更に中にある薄紙を取り去ると写真立てが入っていた。
似た面立ちの娘が二人並んでいる写真を見てルキアは目を見開いた。

「兄様、これは私と・・・緋真・・・姉様?」

白哉の部屋の前の庭でルキアと緋真が池のほとりの石に寄り添って座っている。
・・・現実には有り得ない写真。

「姉の写真をお前にやろうと考えていたのだが、どうせならとこのようにあつらえてみた。」

ルキアはじっと写真を、緋真を見つめる。
とても幸せそうな笑顔。
その笑顔の先にはもちろん白哉がいるのだろう。

この時の姉の胸中にも自分は居たのだろうか?
ルキアがそう思った時、白哉が口を開いた。
「この写真を撮った時、緋真は・・・お前の姉は妹が隣に居るような気がしたと言っていたな。」

ルキアはハッとする。
先日、白哉が急にルキアの写真を撮ると言い出した日の事を思い出した。

ルキアも感じたのだ。
腰掛けた石の上に置いた手が優しく包まれたような温もりを。

あの時、白哉は手ずからカメラを構え、ルキアの腰掛ける場所や姿勢を細かく指示した。
それこそ、手を置く位置にまで。

写真の中の姉妹は自分達の間の石の上に片手を置いている。
それは、緋真がルキアの手に優しく自分の手を重ねている・・・ように見えた。

これは、兄様の緋真姉様への労りと、義妹(わたし)への心遣い。

「気に入ってもらえたか?」
いつもより気遣わしげに聞こえるのは、ルキアに対する緋真の『過ち』を思ってか。

だが、当のルキアは姉に対して憤りの気持ちなど微塵も持っていない。
『戌吊』がそういう場所なのだとルキア自身がよく知っている事もあるが、そもそも赤児だったルキアには記憶がないのだから。
それよりも、『自分には姉がいた』という事実の方が嬉しかった。


「はい、ありがとうございます、兄様。これは・・・私の一番の宝物です。」
そしてルキアはもう一言付け加えた。
「緋真姉様がいつも私と一緒にいて下さるようで、とても嬉しいです。」

それは、緋真に対するルキアの気持ちを白哉に示したものだった。

「・・・緋真に代わって礼を言う、ルキア。」
白哉にそんな事を言わせる程、緋真は今でも愛されている。

ルキアはそれが素直に嬉しかった。
たとえその事実が『朽木家』にとっては決して喜ばしい事ではないと分かっていても。


「用件はそれだけだ。下がってよい。」
白哉が告げるのを合図に、ルキアは頭を下げると立ち上がり廊下で更に一礼した。

そこへ白哉の声が追ってきた。
「緋真の写真は他にもある。見たければいつでも申せ。」

それは普段は見せない白哉の優しさ。

「はい、ありがとうございます、兄様!」

緋真の写真を胸に抱いたルキアの笑顔に白哉はほんの少し微笑んでみせた。


fin
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