鰤二次文(短編)

□†あまのがわ
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「白哉様、お帰りなさいませ。」
昨日まで現世派遣だった為、今日は早めに帰る事が許されおり、夕刻に邸に戻った白哉を緋真が出迎えた。
昨夜は見られなかったその姿に嬉しさを感じる。

早めの帰邸のおかげで、緋真と共に夕餉を済ませ自室に入った後も就寝までには随分余裕があった。

「白哉様、これを持ってまいりました。」
縁廊下に座っていた緋真が自分の前に置いた笹飾りを示し、隣りに座った白哉に礼を言う。
「ありがとうございます。白哉様のお心遣いが嬉しゅうございました。」
「先日、現世で見かけたものを真似てみた。七夕という行事で使うそうだな。」
「はい。尸魂界(こちら)では見掛けませんでしたので懐かしいです。」
しばし、笹飾りを共に眺めていたが、緋真が話し掛けた。
「昨夜は遅くに戻られて今日も夕刻まで・・・お疲れではございませんか?」
体を休めて欲しい緋真が気遣う。
「構わぬ、私には緋真と話している方が余程休息になる。」
真面目な顔でそう言われ、恥ずかしくなった緋真は話題を他に求めて空を見上げる。
「白哉様、今日の星空は一段ときれいですね。」
緋真が目を向ける空には無数の星が瞬いている。
「ほら、天の川が見えますよ。」
「あまのがわ?」
ひらがなでオウム返しに訊く白哉。
「あら、白哉様にもご存知ない事があるのですね。」
緋真はあまりの珍しさに思わず口に出してしまった。
「当たり前だろう・・・それで、何故喜んでいる?」
笑顔の緋真を訝しげに見ながら訊ねてきた。
「緋真にも白哉様に教えて差し上げられる事があると思ったら嬉しくて・・・つい。」
緋真の言葉が終わると白哉は急に立ち上がった。
「白哉様、申し訳ございません。お気を悪くなさいました?」
緋真は白哉の機嫌を損ねたと思い恐るおそる謝った。

ふいに、その目の前に手が差し出され、緋真は思わず自分の手をそこに置いた。
その手を掴んで緋真を立ち上がらせた白哉は笹飾りを見ながら思わぬ事を言う。
「本当はもう一枚書くつもりだったのではないのか?」
短冊はもう一枚あったのだから。
そして、白哉にはその内容も分かっている。

心の中を見透かされたような気がした緋真の頷きは見逃してしまいそうな程小さかったのに、白哉に向けた瞳には強い決意が見て取れた。
「でも書けませんでした。それは星に願ってはいけないのです。自分に誓った事ですから。」
自分で探し出すと誓ったのだから。

「よく言った。それでこそ我が妻だ。」
白哉は緋真を抱きしめ静かに賞賛すると、そのまま抱き上げる。
「白哉様?」
「では、『あまのがわ』とやらについて教えてもらおうか、緋真?」
突然、話を蒸し返された緋真はドキリとした。
「あの、ご気分を害されたのでは・・・」
「緋真が喜んでいたのに私が不機嫌になるはずはないだろう?」
白哉は緋真を抱えたまま奥の部屋へ向かう。
「それで白哉様、なぜ寝所へ?」
「気にするな。寝物語に聞かせてもらおうと考えたまでだ。」
白哉は緋真を見やると微笑し、もう一言加えた。
「・・・昨夜は寝顔しか見られなかったからな。」

夜空の天の川は尸魂界でも現世でも同じくらい美しく輝いていた。


fin
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