物置
□過去拍手小咄・弐
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*2013年12月度掲載分*
《 二人だけのX'masに… 》
周囲の木々に飾られた無数のイルミネーションが煌めく中、普段は落ち着いた雰囲気に包まれている一番隊副隊長・雀部の洋風庭園が今は数多くの死神で賑わい、真っ白なクロスを広げた幾つものテーブルの上に並ぶ和洋取り合わせた豪華な料理が立食形式のパーティー会場の雰囲気を盛り上げている。
『女性死神協会主催☆クリスマスパーティー』
会場入口に設置された立て看板にはそう記されていた。
前回のハロウィンパーティーで味をしめた乱菊達は今回も朽木家を巻き込んで格安に豪華な企画を実行したのだった。
日頃は邸で静かに過ごしている緋真も来賓として参加し、妹のルキアや女性死神達に交じって楽しく談笑などをしていた。
時折困ったような笑みを見せるのは白哉の私生活に付いて訊かれている時。かわし切れずに当たり障りの無い程度の事を話してその場の全員が「信じられない!」と驚く様子を眺めて不思議そうに小首を傾げたり、逆に“自分の知らない朽木白哉”の姿を聞いたりして楽しんだ。
「ルキア!」
パーティーが始まって随分経った頃、人混みを掻き分けて恋次が近寄ってきた。
六番隊の執務を終えて漸く合流した恋次は緋真にペコリと挨拶をしてから手近な料理を取って早速腹拵えを始めた。
「こら、姉様の前だぞ。少しは遠慮せぬか」
眉を顰めるルキアに「済まねえ…ハラ減ってんだ」と言い訳して、緋真にも「済んません」と頭を下げた。
「とんでもない、どうぞ沢山食べてください。その為のお料理ですもの」
緋真ににっこりとそう返され、勢い付いた恋次はルキアに目を向け「そーら見ろ!」と言わんばかりに再びガツついた。
「姉様、こやつを余り甘やかさないでください!」
そう訴えるルキアと彼女に睨み付けられる恋次、二人の姿を緋真は楽しそうに眺めた。
「恋次さん、あの…白哉様はまだ隊舎に?」
恋次の食欲が満たされるのを待ち、緋真が躊躇いながら話し掛けた。
「あ…はい、まだ遣り残した事があるから、と」
「そうですか…」
そう返事をすると少し考え込んでから緋真はルキアを見つめた。
「ルキア、私これでお暇しても良いかしら」
「…はい、分かりました、姉様 ――― 私か恋次が同行しましょうか?」
皆まで言われずともルキアには姉の考えが分かった。
「いいえ、大丈夫よ…ほら、八重が迎えに来ているわ」
それは邸の侍女頭も同じだったに違いない。会場の出入口には見計らったように八重の姿があった。
「恋次さん、ルキアをよろしくお願いします」
「ね、姉様、何を!?」
誤解です、と狼狽えるルキアに小さく手を振った緋真は途中で擦れ違う死神達に会釈をしながら八重の許へと辿り着いた。
「白哉様より夕餉を所望されお持ちする途中でございます。緋真様にお声をお掛けした方がよろしいかと思いまして」
「立ち寄ってくれてありがとう…八重もルキアも私の考えなんてお見通しなのね」
照れ笑いをする緋真に八重は「常にそう在るよう努めます」と微笑み、同行して来た輿に緋真を導いた。
「緋真様を隊舎へお送りしましたら輿は邸へ戻ります。ですから、ご帰邸は白哉様とご一緒になさってください。白哉様は緋真様がいらっしゃる事を勿論ご存知ではございませんが、それ程遅くはならないと仰っておいででございましたので、おそらくは白哉様がそうご指示をなさるかと存じます ――― どうか良いクリスマスをお過ごしくださいませ、緋真様」
「…ありがとう」
俯き頬を染める緋真に丁寧なお辞儀をしてから輿の戸を閉めた八重は、くれぐれも粗相の無いよう従者達に申し付けると出立した輿が見えなくなるまでその場で見送った。
… … … … …
隊舎に着いた緋真が夕餉代わりの弁当を持参して現れると、白哉は普段は涼しげな目許を驚きに見張った表情で迎えた。緋真が来るとは思っていなかった白哉にとって、執務室に現れた緋真は、正に最高のクリスマスプレゼントとなった。
fin
瀞霊廷の最強機関『女性死神協会』が何か企画すると誰も逆らえなさそうですね(笑)。
いつもの様に何て事は無いお話でしたが、白緋の周囲が二人を“二人きり”にさせようと心を配っている様子を描いてみました。loko家の兄様と緋真はそう云う意味では幸せですよね。