物置
□過去拍手小咄・弐
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*2013年11月度掲載分*
《 会心 》
「乱菊、手ェ出し」
瀞霊廷内の路地で不意に目の前に差し出されたのは、干し柿一つ。
「まったく…あんたっていつも突然なんだから、ギン」
毎年繰り返される行為は最早風物詩となっていた。
「 ――― 冬になるわね」
ありがと、と言って受け取った乱菊が見上げる空にはどんよりとした雲が広がっている。
「…せやな」
呟きのように応えながらギンも同じ曇天に目を向ける。
「ねぇ…訊いていい?」
視線を空に向けたまま乱菊が問い掛けた。
「何?」
「あんた…何で死神になったの?」
あの雪の降る日、死神になると言ってあたしの前から消えて…
乱菊には分かっていた ――― これは、あたしが見てる夢
「結局、あたしにはあんたの事が何一つ分からなかったわ」
あたしが泣かずに済む世界…そう言い残して去った時の言葉の意味も、
ごめんな…そう言ってあたしの手を振り解き、虚圏へ去った時の謝罪の意味も、
藍染に従っていた理由も、
藍染に倒された理由も…
乱菊は空を見ていた瞳を手の中の干し柿に移した。
何一つ分からないまま、あんたは瓦礫の中に横たわった姿であたしの許に戻って来た
乱菊は眺めていた干し柿を一口齧った。
「いつも思っていたの」
初めて会った時から抱いていた…あんたから干し柿を貰う度にあたしの身体に足りない何かが補われていく感覚
「今、分かったわ…あれはあんたの“心”だったのね、ギン」
乱菊がギンに顔を向けるとそこには珍しく驚いたような表情が見えたが、それは一瞬の事。
乱菊はギンの腕の中で視覚を奪われていた。
「…おおきに、乱菊」
胸の鼓動と声を遠くに聴きながら、乱菊は窓から射す朝陽の中で目を覚ました。
夢は醒め、ギンも干し柿も乱菊の許には無い。
でも ―――
「ありがとう、ギン」
たった今、欠けていたあたしの魂が全部埋まったような気分よ
… … … … …
「もうボク…尸魂界の霊子に帰しても良さそうやね」
乱菊の取られたもんを取り返したる ――― それが誰も知る必要の無いボクの生きる証だったんやから
fin
実は、最初は若菜とギンのお話でした(笑)!
若菜はまだ喋れない位の年齢で、作った干し柿を乱菊に届けようとしていたギンが迷子になった若菜と出会って…と云う感じで(笑)。でも、書く時間が足りなくて今回のようなお話となりました。
lokoのギン乱はこんな感じのイメージなのです。ラブラブ全開な白緋(←loko妄想)とは違い、ちょっぴり距離感のあるお二人です。
原作のギンは乱菊に謝って、一護に後を託して、思い残す事も無く(笑)逝って(←小説ではそうなっていましたが、原作もそうなのかしら?)しまいましたが、乱菊は居たたまれない気持ちだった事でしょうね?
原作では乱菊も前に進めるようになりましたが、ギンも乱菊もそれぞれが少しでも満たされた気持ちになれば…と思い、書いたお話でした。
京都弁(?)がよく分からず…間違っていたらごめんなさい。