物置

□過去拍手小咄・弐
10ページ/24ページ


*2012年10月度掲載分*



《 夢 〜SIDE緋真〜 》



 はらり

  はらり

――― 桜の…花びら…?

目の前を舞い落ちる薄紅色

それは緋真にとって特別な意味を持つ花

大切な、自分よりも大切な彼の人の化身

わぁ…すごい…

真っ直ぐ前に向けた視界にはどこまでも続く満開の桜の群れ
陽光すら薄紅に染まって見える

此処が何処なのか、何故自分が此処に居るのか自問しようとした緋真

…が、

ふと下に向けた瞳に映し出された光景に些末な疑問は忘却される

「白哉様…」

自分の膝に頭を乗せて横たわる無防備な夫の姿に胸がドキリと高鳴った
閉じられた目許が長い睫毛を一層際立たせる整った寝顔に見入りながら、緋真は溜め息を洩らす
その瞼が軽く動き、ゆっくりと開かれると澄んだ瞳が自分を見つめた

「…緋真」

自分の名を呼ぶ白哉の声に緋真の魂は揺さ振られる

「白哉様…お目覚めですか」

至って自然にそう声を掛けた時、目の前を通り過ぎた花弁が白哉の髪に纏わった

「あ…白哉様、動かないでくださいね」

緋真は滑らかな感触の白哉の髪に触れて薄紅の花弁を摘まんで見せた

桜の大木の下、満開の花を透して漏れる陽が若草の地面を斑に照らしている

「久し振りだな、緋真」

白哉がその姿勢のまま手を伸ばし、少し冷たい整った指先で緋真の頬に触れる

緋真は花弁を風に乗せるとその手を白哉の手に重ねた
緋真の頬と掌にひんやりとした感覚が広がり、すぐに馴染む

「…はい」

緋真は目を閉じて白哉の掌に寄り掛かった

「お前は変わらぬな…私は ――― 歳を取っただろう?」

白哉の意外な問い掛けに驚いた緋真が目を開けると、白哉が微かに笑みを浮かべていた
その顔を暫く眺めて目を細める

「いいえ、全く。以前より少しお髪を短くなさったのですね。こちらもよくお似合いですよ」

白哉の手に重ねていた手を離した緋真は、膝に掛かる白哉の髪を躊躇いがちに漉き上げてみる

絡む事無く指を滑る髪の心地好さが、緋真に暫くの間同じ作業を繰り返させた

「これは夢なのだろうな」

白哉の呟きに緋真の手が止まる

「さあ…どうなのでしょう…私には判りません」

緋真は頬に添えられたままになっていた白哉の手を両手で包むと再び頬に当てた

「現実でも夢でも私には同じ事ですもの ――― 白哉様とこうしていられる事自体が夢のようなのですから」

それはそれは甘美な夢…

「夢の中なら…この程度の事は許されるか?」

膝から半身を起こした白哉に背中と頭に手を廻され地面の上にそっと仰向けに寝かされた
どんな時でも白哉は緋真を包み込むように接する…それは夢の中でも変わらない

「…はい…夢ですもの」

わざわざ問うてみせる夫に愛おしさが込み上げた ――― 白哉が望むのなら緋真には拒む理由など無いと知っている筈なのに

「良かった…」

顔を寄せながら瞳を閉じ、重ねた唇でお互いの想いを二人は感受し合った

顔が離れ、緋真は白哉を見上げる ――― 緋真が何よりも美しいと思っている紫掛かった灰色の瞳が真っ直ぐに自分を見つめていた

ざあーっと、一陣の風が音を立てて吹き抜け、無数の桜を揺らし一斉に花弁が舞う

「 ――― お目覚めの合図ですね」

夢の終焉を告げた緋真は気付けば白哉の腕の中にきつく抱き込まれていた

「愛している…緋真」

緋真の心は白哉の想いで満たされた


愛しています、白哉様 ―――


…またいつの日にか夢の中で緋真を紡いでくださいませ

未だ残る白哉の唇の感触を抱きながら、緋真の意識は桜の渦に融けていく ―――

この程度の願い、白哉様はお許しくださいますよね ――― 夢の中ですもの…


fin


2012年9月拍手文と全く同じものを緋真視点で書いてみました!
一からお話を作る訳では無いので“楽勝!!”と思いきや…意外と内容合わせが大変でした(笑)。
でも、loko的には二人それぞれの気持ちを書けて満足です←読み直して自分で萌えてます♪
こんなにも素敵な情景を快く使わせてくださったチョキ様に改めて感謝します。
m(_ _)m
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ