物置

□過去拍手小咄・弐
3ページ/24ページ


*2012年3月度掲載分*



《 春隣(はるとなり) 》



庭に溢れる陽射しの穏やかさに誘われ顔を向けた緋真は、縁廊下に目を留めた。

「まあ、やちるさん。こんにちは」

廊下と庭の境に覗くピンク色の髪に向かって緋真は声を掛けた。

「あれ?顔出してないのになんで!?霊圧でわかったの?」

やちるは廊下によじ登って不思議そうに言った。

「いいえ、私には霊圧は分かりません。廊下の端からやちるさんの髪が少し見えていたのですよ」

緋真が微笑んだ。

「なーんだ、そっかぁ。緋真ちゃん、何してたの?」
「お雛様を見ていました。お邸の雛飾りはお人形や飾り物が沢山あって楽しいんですよ」

邸に勝手に入って来たとおぼしきやちるを緋真は部屋に招き入れた。

「白哉様は隊舎にいらっしゃいますから大丈夫ですよ…今、お茶をお出ししますね」

緋真付きの侍女は既に茶の用意をするべく部屋を離れている。

「あれ?びゃっくんいないの?」
「ええ。白哉様にご用でしたか?」
「ううん、そうじゃないけど…」

その時、廊下から聞き慣れた足音が近付いて来た。

「やはりお前か、草鹿」
「白哉様!?」
「ほらね、緋真ちゃん。びゃっくんいたでしょ!」
「白哉様、どうなさったのですか?」
「何故草鹿が居る」
「私、やちるさんと雛飾りを…」
「じきにルキアが来る」
「ルキアが?」
「二人で節句の祝いを出来るようにと思い、浮竹に申し入れた」
「そんな…申し訳無いです。私は別に ――― 」
「…だが、賑やかな方が良かろう ――― 草鹿」
「なあに、びゃっくん?」
「他の者も呼ぶがいい。どうせ女性死神協会の面々が邸の中に入り込んでいるのだろう。今日だけは特別に緋真の客として扱ってやる」



普段は大きな雛壇を飾ってもまだ広さを持て余している部屋が、今は死覇装ながらも華やかな女性死神達で賑わっている。

「白哉様…何故わざわざいらっしゃったのでしょうか?」

緋真が朽木家特製のひなあられを一つ口にしてから呟いた。
白哉は結局、あの後すぐにやって来たルキアと入れ替わりに隊舎へ戻って行った。

「そんなもの決まっておるじゃろう」

緋真の前にやって来た夜一が胡座をかいて座ると緋真に盃を手渡し、それを白酒で満たした。

「ルキアを呼んだと伝えた時のお主の喜ぶ顔を見る為じゃ、緋真」

一瞬、ポカンとしていた緋真は我に返ると慌てて白酒を飲み干した ――― 夜一の言葉で頬が朱く染まるのを誤魔化す為に。

雛壇を飾る専用の部屋から見える庭の桃の木で鳴く鶯の声が節句の祝いに花を添えた。


fin



“春隣”は冬の季語だそうですので3月の拍手文のお題としては時季外れかもしれませんが、感覚的には合うのではないかと思います。
やちるが邸に来ると緋真を取られてしまう為、ちょっぴり淋しいびゃっくんです…然り気無く業務を恋次に押し付けてわざわざルキアの事を知らせに来たのに(笑)。
それでも、緋真に少しでも楽しい時を過ごさせる為なら女性死神達をも招いてしまうびゃっくんなのでした。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ