物置
□過去拍手小咄・壱
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*2011年5月度掲載分*
《 親ごころ 》
「白哉、居るかい?」
暖かな陽射しが燦々と降り注ぐ庭に面した障子は、今日は開け放たれていた。
部屋の中にまで届く陽の光を灯りに、書見台に向かっていた白哉は驚いたように声の方へ顔を向けた。
「父様!いつお戻りに!?」
廊下には蒼純が立っていた。
「こらこら、白哉。挨拶が先だろう?」
「申し訳ありません!」
白哉は父の方へ向き直り居住まいを正してから額付いた。
「お帰りなさいませ、父様。ご無事のお戻りを嬉しく思います」
「ただいま、白哉。厄介事も無くてね、予定よりも早く戻れたんだよ」
蒼純がそう答えながら差し出した品を白哉は立ち上がって受け取った。
「父様…これは何ですか?」
棒の先に鯉を模した布が三つ付いていた。
それを凝視しながら“…何となく玩具っぽい感じがするのですが?”と思っているのが表情に表れてしまっている白哉に蒼純は笑いを堪えて説明した。
「“こいのぼり”と言ってね、現世で子どもの成長を願うものだそうだ。これは小さいけれど、大きなものが現世の空にたくさんはためいていてね、まるで空を泳いでいるようだったよ」
「…父様、お言葉ですが私はもう子どもではありません」
まだ幼さは残るが、次期当主である筈の蒼純自身よりも余程朽木家の跡取りとしての自覚がある白哉。
その気の強さに時として苦笑させられる。
「そうだね。白哉は私よりもしっかりしているから…」
「いいえ!私など、父様や爺様にはまだまだ及びません!!」
間髪入れず返す言葉と真摯な瞳には父への尊敬の念が溢れていた。
「私は一度隊舎へ戻るよ。実はそれを早くお前に渡したくて、お祖父様へのご挨拶よりも先にここへ来たんだ」
「…今晩はお帰りになられるのですよね?」
「うん。ご報告を済ませたらすぐに帰って来るよ」
そう言って蒼純は息子の頭を撫でた。
また小言が返ってくるかと構えていた蒼純だったが、白哉は恥ずかしそうに下を向いて素直に父の掌を受けていた。
「父様…」
「何だい、白哉?」
白哉は手にしたこいのぼりを見てから父に頭を下げた。
「ありがとうございます」
強がりを言っても時折見せる子どもらしさに和まされる…白哉はいつまで経っても私の子だから ―――
fin
☆5月ですので子供の日のお話にしようと決めてから考え始めました。
子どもと言えば、やはり白哉坊ですよね!
相手は勿論、お父様…と、云う訳で蒼純です。
キャラブックでお顔と簡単な設定が明かされただけで、実際には父子の様子は皆無ですが、非常に優しい方のようですのでこんな感じだったのでは?と考えました。
(お気に召さなかった方、ごめんなさい)
その蒼純の息子ですから、兄様も根は優しいのですよね。
何と言っても、緋真の夫、ルキアの兄様ですもの!!