物置
□過去拍手小咄・壱
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*2011年3月度掲載分*
《 まだ遠き春に 》
「緋真、作っていたものは完成したのか?」
「はい、つい先程。材料を揃えて頂き、ありがとうございました」
「それで」
「…え?」
「見せては貰えぬのか」
「いえ…あれは白哉様のお目に掛けるようなものでは ――― 」
「価値は私が決める。その品を持って参れ」
白哉にそう言われ、緋真は作ったものを取りに慌てて自室へ戻った。
「お待たせしました、白哉様」
先に目的地に着いていた白哉は廊下で緋真の到着を待っていた。
「貸してみろ」
言われた緋真は両手に乗せていた丸い小さな二つの人形を白哉の手に移した。
「綺麗なものだな」
「はい。とても美しくて使い易い千代紙でした。人形の本体も木だとは思えない柔らかな肌触りで」
嬉しそうに語る緋真に頷いてみせてから部屋に入った白哉は、人形を床の間の飾り棚に並べた。
「此処に飾っておけ」
「…ですが、ここは ――― 」
朽木家に伝わる立派な雛壇が置かれた部屋。
「価値は私が決めると言った筈だ」
「白哉様…」
自ら置き去りにしてしまった実妹を想い作ったもの ――― いつか渡す日を信じて。
「この雛に相応しい台座と箱を作らせる。私からお前への褒美だ」
この小さな雛に込められた緋真の魂(おもい)を超えるものは何処にも在るまい ―――
fin
3月ですから、お雛様ネタにしてみました。
このお話も短編と連動していますので、是非そちらと合わせてお読みください。
今回は文よりもイラストに注力し過ぎて締め切りに間に合うかヒヤヒヤしていた事を思い出します。(笑)
ちなみに人形にはモデルがあり、3月3日まで職場に飾られておりました(←だから、何してんだか!?)
拡大してみました。