物置
□過去拍手小咄・壱
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*2010年4月度掲載分*
《 さくらんぼ 》
それは白哉が少年の頃の事 ―――
「白哉坊、その種を植えておけば桜の木になるぞ」
四楓院家から贈られたさくらんぼを庭先で摘まんでいた白哉に夜一が笑いながら言った。
白哉は一瞥して不機嫌に言い放つ。
「私はそんな事に興味は無い!無駄口を叩く暇があるなら、さっさと始めろ!!」
剣術の相手をしてやる名目でやって来た夜一に木刀を向けた。
その夜 ―――
庭の桜並木の一画に白哉の姿があった。
闇に紛れて土を掘り返すと隠し持っていたさくらんぼの種を植え、水差しの水を掛けて部屋へ戻っていった。
「爺様、ご覧下さい。さくらんぼの芽が出ました」
「まるでお前のようだな、白哉?」
「…私はもう赤子ではございません!!」
「ははは、そうか。では、この桜の大木のように立派に成長する日も近いな」
銀嶺は孫を見る目を細めると、その頭を優しく撫でた。
桜の銘を持つ斬魄刀の主となった白哉は、瀞霊廷屈指の家柄の家長となり、護廷隊の隊長となった。
一方、さくらんぼの芽は立派に成長して朽木家の庭に毎年春の訪れを告げている。
ただ…あの桜の芽が、白哉に内緒で夜一が植えたものであったことを白哉は今も知らない。
fin