鰤二次文(リク)

□☆桜雪
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襖が静かに引かれ、緋真が姿を現した。

「あの・・・白哉様、いかがでしょうか?」
頬を染めた緋真が遠慮がちに問う。

黒髪にドレスの白がよく映え、その髪にはドレスと同じ純白の更に繊細なレースを施したヴェールが流れるように掛けられていた。

「とてもよく似合っている。」

白哉の言葉に顔をうつむき加減にして恥じらいながら緋真も口を開いた。

「白哉様・・・お召し下さったのですね。」

白哉も真っ白なタキシードに身を包んでいた。
普段は死覇装か着物姿だが、洋装も見事に着こなしており、何よりも洗練された物腰と醸し出される気品が噂に聞く英国の貴族を思わせた。

嬉しそうなのに白哉を正面から見ようとしない緋真。
白哉が近づいて訊ねる。
「見るに耐えぬのか?」
緋真は慌てて顔を上げる。
「いいえ、とんでもない!その・・・緋真が想像していたよりも・・・素敵過ぎて・・・。」“まともに見られないのです”と云う言葉は呑み込んだ。
そんな言葉を白哉は決して喜ばないから。
「夢を見ているようです。ありがとうございます、白哉様。」
緋真は花の蕾が綻ぶような笑みを浮かべて礼を述べた。

それを聞いた白哉は緋真の耳元で囁く。
「私には過ぎた贈り物かも知れぬな。」

ウェディングドレスに身を包んだ緋真。
白哉にとってこれ以上のプレゼントがあろう筈がないのだから。

「少し庭を歩こうか、緋真。」
「よろしいのですか!?嬉しい!」
白哉の誘いを緋真は素直に喜んだ。


庭に下りると白哉が自分の腕に緋真の手を組ませて玉砂利を進む。
ドレスの裾を踏まないよう歩くのに気を取られて自分の腕に縋る緋真を白哉は満足そうに見つめていた。

「せっかくの日本庭園ですが、洋装では合いませんね。」
そっと言う緋真に白哉が問うた。
「何故わざわざ一番隊の隊舎へやってきたと思う?」

ここも勿論素晴らしい庭なのだが、庭園の造りなら朽木家の方が上だ。
緋真は小首を傾げた。

そうして進む内に突然景色が一変し、緋真は思わず声を上げた。

「まあ・・・これは・・・。」

塀を一つ過ぎると写真でしか見たことのない西洋風の庭に入っていた。

「一番隊の副隊長は英国趣味でな。瀞霊廷では珍しい洋風の庭園を造っているので今宵の為に借り受けたのだ。」

和風の庭園とは趣の異なる庭を二人で腕を組んだまま連れ立って巡る。
庭は所々ライトアップされており、照らし出される珍しい植栽に足を止めてはお互いに話し掛け、二人で笑う。

そんな夢のような時間はいつでもすぐに終わりを迎えてしまう。
たとえそれが瀞霊廷一の貴族であっても。

「残念だが、そろそろ時間だ。」
そう告げながら白哉は緋真の手を引くと庭園脇のベンチに座らせた。

「今宵はホワイト・クリスマスと云う訳にはいかなかったが・・・雪の代わりこれを見せよう。」

白哉は緋真からは少し離れた位置に立つと斬魄刀を抜いた。

「散れ、千本桜。」

白哉が翳した斬魄刀の刀身が桜の花弁のように細分化して宙に散る。

「まあ・・・。」

あくまでも刃である花弁は決して緋真の傍には近寄る事はなく遠巻きに舞っているのだが、一言発したきり、緋真はその美しい光景に言葉を忘れて見入る。

宙を舞う千の刃の動きには敵を追い詰め切り刻むための冷徹な素早さは無く、正に柔らかな春風に舞う薄紅色の桜の花びらそのものであった。

寒空の下、それは静かに舞い降りる雪にも似て ―――


fin
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