鰤二次文(リク)
□☆硝子の靴はいらない
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「きゃっ!!」
慣れない靴で慌てて階段を駆け下りていた緋真は途中で足を踏み外してしまった。
転げ落ちる恐怖を予測して目を瞑った緋真だったが、身体が感じたのは衝撃ではなく柔らかな感触。
目を開けると緋真は白哉の腕の中に居た。
瞬歩で先回りした白哉が体勢を崩した緋真を危なげなく受け止めていたのだ。
「大丈夫か?」
「白哉様・・・あ、ありがとうございます。」
ほっと息をつきながら緋真が小声で囁く。
「白哉様、お話と違います。緋真は硝子の靴を残して走り去って行くのですよ?私より遅れていらっしゃらなくては。」
緋真が本来の展開を伝えたが白哉は意に介さない。
「莫迦を申せ。この私が緋真に追いつけず、あまつさえ逃がすなど言語道断。そのような失態を晒す事は私の誇りが許さぬ。」
「でも・・・」
「後日、履き物から緋真を捜し当てるのだろう?結果は同じだ。」
台本には無い会話を交わす二人に構わず物語は進んでいく。
丁度、12時の鐘が鳴り終わった。
緋真のドレスから白い気体が立ち上り、徐々に衣装が薄れていく。
緋真のドレスを形作っていた霊子が分解を始めたようだ。
「大変!魔法が・・・」
その言葉が終わらないうちに素早く緋真の身体はマントで覆われた。
「これで誰にも見られぬ。」
白哉はそう言って緋真を安心させてやる。
そうして緋真を守るように腕の中に納めてから、白哉は階段脇の植え込みに鋭い視線を走らせた。
「涅マユリ、貴様の仕業か。」
名を呼ばれた人物は植え込みの陰から現れた。
「やれやれ、面倒な事になったネ。霊子の物体化データが最後まで採れなかったヨ。」
“実験のやり直しだ”と、心底残念そうに言い捨てマユリは立ち去った。
兎にも角にも、緋真を逃がさなかった白哉は、街まで緋真を捜しに行く手間も無くそのまま二人で幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
*お話終了後の朽木夫妻の会話*
「・・・それにしてもこの話に出てくる王子、娘の足に追いつけぬとは不甲斐ない。日頃の鍛錬を怠っておるのではないか?いや、それ以前の問題だな。」
本来の物語に目を通し、白哉は真面目な顔で感想を述べた。
「そういうお話ですから仕方がありませんよ、白哉様。」
緋真が物語の王子を弁護するような事を言ったため白哉は少し面白くない。
「緋真は・・・やはり私が履き物を片手に捜しに行った方が良かったのか?」
「白哉様にそんなお姿は似合いませんよ?」
白哉の問いに笑いながら即答した緋真は一瞬、白哉の目を見てから視線を外し顔を赤らめる。
「その・・・緋真を逃がさないで下さって・・・嬉しゅうございました。」
緋真のその言葉で一件落着の朽木家でした。
*魔法使いの研究室*
「残された靴から娘を捜す?何を暢気な事を言っているのかネ、この王子は。靴など他の服と一緒に元の霊子に戻って跡形も無くなるに決まっているヨ!」
「はい、おっしゃる通りです、マユリ様。」
fin
→ あとがき