オリジナル文

□すだれ越しの眺め
1ページ/21ページ

≪1.こうしてぼくはここにいる≫

ぼくは今日退院して自宅に戻ってきた。
全快して・・・という訳ではないのが残念ではあるが、ここに帰って来ることができて正直ホッとしている。

ぼくが久しぶりに帰ってきたその日は、信じられないくらい大気(くうき)の澄んだ涼しい日だった。
それなのにその日は、この夏一番の暑い日だったそうだ。

その日からぼくは一日のほとんどを布団に横たわって過ごす事になった。
ぼくは自分の身体をわずかに動かすので精一杯だったから。

ぼくの布団は南向きの大きなガラス戸の近くに敷かれた。
今日は良い天気なのでそのガラス戸は開けられ、外を見ることができる。
そこからは五歩も歩けば道路へ出てしまうような小さな庭が見える。
手前には乱雑に刈られた芝生がある。
車一台がやっと通れるぐらいの道路の向こうには畑がある。
道路と畑の境には夏らしいひまわりが咲き乱れている。

"夏の陽射しは眩しいだろう?"
そう言って優しい家の人は竹のすだれを掛けてくれた。
とても趣のある庭になった。
"今日は暑いから、涼しくしてあげようか?"
そう言って優しい家の人はすだれの傍に風鈴を掛けてくれた。

ほんの少し風が吹いて、風鈴が鳴った。
大気が口をきいたような、そんな不思議な音色(おと)がした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ