オリジナル文

□A Merry Christmas, Lady!
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〜 ちょっと照れたように、でも、彼は約束通りにあたしの家に来てくれた 〜



木枯らしが吹く度に黄金色に染まった街路樹の葉がヒラヒラと落ちてくる。セントラルパークにも一面の落ち葉が、まるで枯れ色の絨毯のように敷きつめられ、清掃人が掃いても掃いても追いつかない。
ニューヨークの冬 ――― 道行く人々が寒そうにコートの襟を立てて足早に歩いていく。そんな凍える季節の中でも特に厳しく冷え込んだ日のこと。
ビルの一画を20代前半の女が一人、セントラルパークの方向へ颯爽と歩いていく。寒風に流される長い黒髪の後ろ姿は人波の中に消えていった。

再びその姿が現れたのはセントラルパーク近くの剣呑な居住区。彼女の歩く道の脇からは住人の鋭い視線が投げ掛けられるが、不思議な事に誰一人として近付く者はなかった。

彼女が歩みを止めたのは、とある店の前。
『営業中』の札をチラリと確認すると、躊躇うこと無くドアを開けて入っていった。


「おい、見たか?」
「ああ…いい度胸してんな。だがよ、誰も手エ出さなかったな…俺達もだけど」

店の反対側の建物の前で、彼女の後をつけてきた二人の男が小声で言い合った。

「そりゃそうだろ。あの店に入ってったんだぜ」
「真っ直ぐ向かってたからな」
「ありゃただ者(もん)じゃねーぞ」

 
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