鰤二次文(長編)

□◇ 斬魄刀の誘い(いざない)
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斬魄刀の解放

始解は斬魄刀との『同調』と『対話』
そして、卍解は斬魄刀を『具象化』させ、それを『屈伏』させなければ修得出来ないとされている。

卍解に一番近い実力を持つと言われている副隊長、朽木白哉。
だが、あと一歩のところで高みに至れず、足りない何かを模索する月日が続いたある夜。

夢の中、白哉は眼前に広がる荒野の端に立っていた。
声なき声が問う。

"卍解を望むか?"
「・・・知れたこと。」
"今の貴様では無理だ"
「何故?」
"我を納得させるだけの『思い』がない。そのあまりの強さに『無』と同意になる程の抗えない『思い』だ"
「それがあれば・・・兄(けい)は姿を現し私に『屈伏』するのか?」
"同時に貴様もその『思い』に伏されると云う事だ。折れる事のない朽木白哉の誇りを捨て去るに等しい行為だ。高みを目指すならここへ来てみるがいい、その『誇り』を代償として"

嘲笑うかのように誘(いざな)うのは『千本桜』か。
斬魄刀が『魂』と同義であるならその『声』に従ってみるのも一興だろう。

「よかろう。どこだ、私に自分を棄てさせるという場所は?」
"・・・知らずとも導かれる・・・"
夢は、覚めた。


陽が落ちて、平穏の内に終業した隊舎から白哉は直接その地へ向った。
邸には既に戻りは遅くなると使者を送ってある。

*********

『千本桜の荒れ地で見る月は非常に美しいそうだ』
『だが春の満月の晩に観ると・・・桜に取り殺されるらしい』
『この時期の満月の晩に咲いてその次の満月に一晩で散るってよ。どんな桜なのかね』

偶然耳に入った街での噂話。
『美しい月』という単語に瀞霊廷の少年の姿が重なった。
一度観てみたいという思いが抑えられなくて、でも、『桜に取り殺される』という話が怖くて、満月ではない今日観にいく事にしたのだ。

荒れ地の知識は多少あったが行ってみた事はなかった。

「一本道のはずなのに迷うなんて・・・」
自分の方向音痴に半ば呆れながら、暗い森の中を緋真は元の道を求めて歩いていた。

*********


夢に見た目的地はどこか解らぬままだが、月明かりの中、脚はそこへ引き寄せられるように瞬歩を繰る。
・・・幼き日、陽光の下を同じく瞬歩で移動した道を辿っているのが解った。
目的地は『戌吊』にあるのか?
『ひさな』と別れた街を横目に更に脚は進む。

道らしきものがあるとは云え、死神でなければ駆け抜けるのは不可能だろう暗い森の中を迷う事なく走り、やがて視界が開けた。

荒涼たる大地。

脚はゆっくりと進み、大地の境界まで来たところで止まった。

夢の中と同じ風景を目の前に『千本桜』が解放しろと促している気がした。

煌々と輝く月光の下、一分の隙もない所作で鞘から抜いた斬魄刀は持ち主と同じく美しく冷徹に光る。

「・・・散れ、千本桜・・・」
解号に従い『千本桜』が刀身を散らすと同時に白哉が密かに心の内に積もらせ続けた『想い』も攫っていくように感じた。

そして、人の気配に振り向いた闇の中に、見ることは叶わない筈の笑顔を見つけた気がした・・・

それが気のせいではなかったことを白哉はその数瞬後に知ることになる。

『千本桜』は知っていたのだろうか?
だが・・・斬魄刀は語らぬ。



fin
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