鰤二次文(短編)

□†花筏(はないかだ)
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筆を置き、最後の書類を積み上げた白哉が顔を上げた。

「夜が明けていたのか…」

開け放した窓の方へ目を遣り、うっすらと明るくなった屋外を確認する。
虚討伐任務の間に滞っていた書類の山は、夜を徹した白哉の働きで概ね片付き、あとは隊長の決裁が必要な十数枚を残すのみとなっていた。

席を立った白哉は何かに誘われるように窓辺に寄った。
視線の先には花の季節はとうに過ぎ去り、緑の葉に覆われた花木。

「沈丁花…」

その花の香りで白哉が一番に想い浮かべるのは“春”ではなかった。

“緋真の事だ…既に起床しているのだろうな”

昨晩、一時帰邸した折に少し会話を交わしただけの愛妻を思い起こした。
門の向こうで白哉を気遣いつつ見送る儚げな姿を。

その時、外から頬を過ぎった風に白哉は瞠目した。

「…この香りは…沈丁花!?」

目の前の木に、勿論花など無い。

「莫迦な…この時期に花など何処にも ―――」

それなのに、確かに自分を包む間違えようの無い安息の香り。
目眩に襲われた白哉は、その場にゆっくりと崩れ落ちた。


…………………………

同じ頃、既に着替えを済ませ自室の鏡の前に座っていた緋真が外へ意識を向けた。

「…白哉様?」

白哉の声を聴いた気がした。
邸内の動きには主の戻った様子が窺えないのだから自分の勘違いだと思いつつ、緋真はまだひんやりとした空気が漂う早朝の庭へ下りて行った。

 
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