鰤二次文(短編)

□†過去と未来との交錯
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「緋真。」
「はい、白哉様・・・っ!?」
屋外から呼ばれて振り向いた緋真はカシャッという聞き慣れない音と同時に受けた光の眩しさに思わず目を瞑った。
「・・・目を閉じてしまったか。」
白哉が珍しく“しくじった”と云うように、でも笑いながら呟いた。
その声に緋真がそーっと目を開けると、白哉が何かを片手に緋真を見ている。
「白哉様、それは?」
「カメラだ。」
「えっ、それがですか!?私が現世に居た時はもっと大きくて・・・」
「・・・これより少し大型の物を婚儀の折に使ったが?」
「そうでしたか?覚えていません。」

あの時は白哉の顔を潰すような無様な行いをしない事に精一杯で緋真には周りを見る余裕など皆無だった。
覚えているのは白哉の凛々しい姿だけ。

「技術開発局の試作品だ。」
物珍しげに近寄ってきた緋真にそう説明しながら何事か操作をするとカメラを差し出した。
「私!?」
カメラ本体の画面に今撮ったばかりの緋真が写し出されていた。
「綺麗に撮れているだろう。すぐに画面で見る事も後で現像する事もできる。」
緋真は驚きに目を丸くするばかり。
色の付いた写真を見ること自体、尸魂界に来てからだったのに現像せずに見られる『写真』など想像すらできなかった。

気恥ずかしく思いながらも自分の画像を見ていた緋真がふと訊ねる。
「白哉様の写真はございませんか?」

白哉は眉を顰める。
「自分を撮る程物好きではない。何故だ。」
「では私に扱い方を教えて下さい。白哉様の写真を持っていたいのです。」
「そんな物は必要ない。本人がここに居る。」
白哉はそう言ったが緋真は更に言い募る。
「もちろん白哉様がいつでも目の前にいて下さるなら・・・。」
だが、実際は居ない事の方が多い。

緋真の言い分に納得しかけた白哉は考え直す。
「だめだ。」
「何故でしょう?」
「・・・私の写真を四六時中眺めていて見飽きられては困る。」
「・・・。」
本気かどうか判断しかねる白哉の発言に緋真は二の次が継げなかったのだが、それを白哉は緋真が拗ねたと思ったらしい。
「・・・分かった、後日扱い方を教える。」

「本当ですか、白哉様!ありがとうございます。」
何故白哉が承諾したのかは解らないまま、緋真は喜々として礼を言う。
そして、緋真のその様子を見て、知らず笑みが零れる白哉。

「では、今日は諦めてそこに座れ。一枚撮ってやろう。」

白哉が池のほとりの石を指して促すと、緋真は嬉しそうに庭に下りて言われた通りに腰掛けた。
「これでよろしいですか?」
「ああ。そのままこちらを見ていればよい。ただし目は瞑るな。」

目を瞑るなと言われた緋真は瞬きすら我慢する。

「緊張し過ぎだ。」
白哉は呆れたように緋真に伝える。
「白哉様が目を瞑るなとおっしゃるから。それに・・・白哉様のお顔が見えないのが不安で。」
「仕方がない、カメラは覗かぬ。が、上手く撮れなくても知らぬぞ。」
緋真の最後の一言が利いたのか、白哉はカメラの画面を見ながら位置合わせだけを行ってレンズを覗く事なくシャッターを切った。

「あっ・・・。」
「どうした?」
ふいに声を上げた緋真の所へ心配げに白哉が歩み寄った。

「いえ・・・何でもありません。ごめんなさい。」
「隠す事でもあるまい?」
緋真は腰掛けている石の上に置いたままの片手を見つめた。

「笑わないで下さいね。今、白哉様が写真を撮って下さった瞬間に感じたのです―――」


 
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