鰤二次文(短編)
□†花語り
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其の壱 《梅》
「この梅の木だけ他のものより若いのだそうですね。」
白哉の私庭にある一本の梅の木を見上げて緋真は隣にいる白哉に訊ねた。
「他は私の生まれる前からあるが、これは私が植えさせた。この庭で唯一緋色の花を咲かせる梅だ。」
白哉がどこか遠くを見るように言うので、緋真はこの木の意味について訊けなくなった。
緋真が知らない白哉の過去を詮索していると思われたくない。
白哉は緋真に瞳を向けた。
「『ひさな』の字は解らなかったが、『緋』色が思い浮かんだ・・・そして、緋真には梅の花が似合うと思い植えさせた。」
私に?
「緋真と再会する数十年も前だ。」
再会など万に一つもあり得ないはずだったのに?
「だが、実際に緋真が庭に立った時には白梅の方が似合うと気付いた・・・当たっていたのは名に『緋』が入っていた事だな。」
白哉はとうに花が終わった梅の枝を見て満足げに語る。
私はこれ程の情けを頂いていながら、白哉様に何かを差し上げられたのだろうか?
「白哉様はご存知のはずですよ。緋真が白哉様のお庭の中で一番好きなのはこの緋色の梅だと。」
私の拙い言葉に耳を傾け、優しい瞳を向けてくださる方。
「そうだったな。」
きっと私は白哉様のその表情で確認している。
たとえ些細な事でも白哉様のお心に報いる事が出来た、と。
「ありがとうございます、白哉様。」
緋真ははにかむような笑顔で礼を言った。
白哉は思う。
私を癒やすものは緋真の為すこと全てだといつになったら理解してくれるのか・・・と。
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