鰤二次文(リク)

□☆春夢
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護廷隊副隊長と朽木家当主を兼ねる白哉の多忙は他の死神の比ではない。
そんな中でも緋真と過ごす時間を確保出来ているのは、白哉の能力の高さと何より緋真に対する深い愛情の賜物である。
しかし、その結果、自分を省みない白哉を緋真は度々心配する事となる。

「白哉様、お働きが過ぎますよ。」
「この程度で何を言っている。」
白哉と緋真との間でよく交わされるこの遣り取りは、いつも緋真が半ば呆れながら溜め息をついて終わる。

よく晴れた早朝の穏やかな朝餉の席。
その日も、休務日だと云うのに朽木家の雑事を片付けると聞いた緋真は白哉と先の台詞を交わした。
が、今日に限ってはそこで終わらなかった。

「もう・・・白哉様は緋真の言うことなど少しも聞き入れて下さらないのですから・・・。」

思わず白哉の箸が止まる。

そっぽを向いて拗ねたように呟く緋真を、白哉はうっかり可愛いと思ってしまった。
そうすると、緋真に関しては人並みの感情が働く白哉は、他の表情も見てみたくなる。

外に目を向けると穏やかな光が降り注いでいる。
昨夜、緋真から庭の桜が見頃となっていると聞いた事を思い出した。

「緋真の言う通りかも知れぬ・・・反省しよう。」
胸の内は欠片も表に出さず、あくまでも緋真の言い分に納得した風を装う白哉。
緋真が驚いて白哉に目を向ける。
「邸の雑事は午前中に済ませ、午後は休息する。」
「本当ですか、白哉様!?」
緋真の瞳が嬉しさのあまり潤むのが見て取れる。
「その代わり、緋真には私に付き合ってもらう。よいな?」
更に白哉が微笑付きで緋真に確かめると、間髪入れず嬉々とした返事が来た。
「はい!!白哉様におくつろぎ頂くためならば緋真は何でも致します!」

喜ぶ緋真を満足げに眺めてから、白哉は何事も無かったかのように朝餉の箸を進めた。


「白哉様、緋真は何を致しましょうか?」
事業の書類に取り掛かる前の白哉に緋真は問うた。
「そうだな・・・今日は緋真の琴の音があると仕事がはかどりそうだ。」
白哉が伝えると、緋真は「お耳触りになっても知りませんよ?」と断りを入れながらも嬉しそうに琴を用意し、楽器の前に座った緋真は春らしい静かでゆったりした曲を選んで奏し始める。
白哉は緋真の奏でる音色に耳を傾けつつ文机に向かった。


「緋真、待たせたな。」
午近くになり、机上を片付けた白哉は緋真の演奏が終わるのを待って声を掛けた。

「お疲れさまでした、白哉様。昼餉になさいますか?」
琴爪を外しながら緋真は笑顔を向ける。
「ああ。」
「では、用意をさせてまいりますね。」
白哉の返事を受け、立ち上がろうとする緋真に白哉は手を伸べた。
「いや、すでに調えてある。庭に下りるぞ。」
部屋から直接庭へ出た白哉に、緋真は手を取られるまま連れられて行った。


 
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