鰤二次文(リク)

□☆睦月、晦日(むつき、みそか)
1ページ/4ページ

陽が落ちて更に冷え込んではきたが、中庭に面した障子は素晴らしい庭園を眺めるために開けられている。
夕刻からチラつき始めた雪で薄く雪化粧を施された一分の隙もなく整えられている庭園は、配置された篝火に照らし出され、炎の揺らめきが幽玄さを増していた。


「お誕生日おめでとうございます。」

庭を臨む部屋で祝い膳の前に座り祝いの言葉を受ける朽木白哉。

それは毎年この時期になれば貴族達からウンザリするほど聞かされるため、礼を欠かぬ程度に会釈はするものの雑音と同様に聞き流される言葉だが、発した者がこの二人ならば話は別だ。

朽木白哉最愛の妻、緋真。
そして、緋真の妹ルキア。

特に緋真からのふわりとした笑顔付きの挨拶には目許を緩めた眼差しを返して、愛妻の頬を染めさせた程。

が、一瞬後には不機嫌さを隠さずに眉を顰めると同時に目を瞑った。
眉間のシワが深くなる。

「兄様。その様なお顔をなさっては、姉様に怖がられます。」
ルキアの進言に白哉は目を開く。
ルキアの背後を見やって白哉が言う。
「・・・お前の言はもっともだが、この状況では致し方あるまい。」
「ですよねぇ。」
ルキアも振り返り溜め息をついた。


白哉は自分の誕生日になど興味はないが、丁度その日が休暇となったため、緋真を伴って朽木グループの温泉地へ行く事となった。
宿泊は当然最上級の部屋だが、うっすらと雪化粧をした庭園を緋真に見せようと考え、膳だけは一階の一般用の広間に用意させた。

襖でしっかりと隔てられた隣の大広間では団体客の宴会が催されると事前に聞いていたが、非常によく知っている霊圧を感じた白哉が苛立たしげに襖を開けた先には ―――

宴会で盛り上がる死神達の姿があった。

白哉が反射的に閉じようとした襖は目敏く気付いた浮竹によって全開にされ、白哉の意思は全く無視された合同宴会が勝手に始められた。


「隊長、今日誕生日だったんスか!?おめでとうございます・・・つうか何で俺に教えとかねぇんだよルキア。」
恋次が傍にいたルキアに耳打ちすると、ルキアは恋次に向き直り小声で叱りつけた。
「たわけ!貴様、副隊長であろう!なぜその程度の事を把握しておらぬ!」
「無茶言うなよ・・・。」

「白哉くんは今日が誕生日だったんだねぇ。」
京楽が手酌でチビチビ呑みながら呟くと、浮竹が「実はそうなんだ!」と受けた。

「・・・何故、兄等がここに居る。」
不機嫌全開のトーンで白哉が訊ねる。

「おーい、みんな!今日は朽木隊長の誕生日なんだ!せっかく同席しているんだからみんなで祝おうじゃないか!」
白哉の問いを無視して勝手に音頭を執る浮竹に同調した酔っ払い達が口々に「おめでとーございまーす!」と心のこもらない祝いを述べる。

「皆さんのお座敷にご一緒させて頂いた上にお祝いの言葉まで・・・ありがとうございます。」
白哉の機嫌とは裏腹に緋真がにこやかな挨拶を返すと死神達はどよめいたが、すぐ、白哉が発する重い霊圧に押し黙った。

先程浮竹に無視された白哉の問いには恋次が答えることになった。
「何言ってんですか、慰安旅行の案内は回覧しましたよ?見逃したんじゃないですか?隊長、いつも旅行とか行かないし、今日は元々休む予定でしたからね。」
それに反論したのはルキア。
「恋次、めったな事を言うな!兄様に限って見落としなどあるはずがなかろう!」
「イヤ、だって実際知らなかったし・・・。」

そんな微笑ましい口論を見守っていた緋真が大広間にチラリと目をやってから遠慮がちに白哉に話し掛けた。
「白哉様。」
「なんだ。」
「卯ノ花様がいらっしゃいます。私、ご挨拶に参りたいのですが少し中座しても構いませんか?」
「卯ノ花隊長を知っているのか?」
「はい。瀞霊廷の中で幾度か声を掛けていただいた事があります。」
「そうか。私は別に構わぬ。 」
「ありがとうございます。すぐに戻りますので。」
緋真が礼を言って立ち上がると、横から浮竹が声を掛けた。
「緋真さん待ちなさい。一人では白哉が気が気ではないだろうから・・・朽木、姉さんに付いていてやれ。」
ルキアが浮竹の言葉に素早く動く。
「兄様、御安心下さい。このルキアが緋真姉様をお守りしてみせます!では参りましょうか、姉様。」
「あ、待て、ルキア。俺も付いてってやるよ!」
重苦しい雰囲気の白哉の前から逃れるべく、恋次も立ち上がった。

広間の端を遠慮がちに通る緋真に周りの死神からは好奇の目が向けられるが声を掛ける者は誰一人いない。
もちろん、ルキアと恋次の護衛の成果ではなく、緋真へのアプローチを牽制する白哉の“睨み”を怖れてであった。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ