鰤二次文(リク)

□☆桜雪
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それは現世の暦でクリスマスイブと呼ばれる日の陽が落ちた頃。

「準備をしてみたものの・・・これは『白哉様への』プレゼントになるのかしら・・・。」

さすがに現世ほどの賑わいではないが、瀞霊廷内でも贈り物を交わしたり、ご馳走を食べたりとちょっとしたお祭りムードとなっていた。
そんな中、緋真は自分の部屋で大きな箱を前に思い悩んでいた。

霜月に入った頃から“白哉様に喜んでいただけるプレゼントを!”と真剣に考えていたのだが、何分暮らしに不自由の無い家柄に加えて普段は何かを求める事の無い白哉である。
何を贈れば喜んでもらえるのか全く分からない。
そんな時に届いた『瀞霊廷通信』の“現世の結婚事情”に載せられていた衣装の写真のページ。
「これ・・・。」
それを見た緋真はプレゼントを思いついたのだが・・・。


緋真はハッと顔を上げた。
邸の静かな慌ただしさが当主の戻りを告げる。
緋真は何度目かの溜め息をついて、白哉を出迎えるために腰を上げた。


***********************


散々迷った挙げ句、緋真は就寝前にようやく心を決めた。

「白哉様。これをどうぞ。」
抱えられない程の大きな箱を笑顔の緋真から渡された白哉。
クリスマスプレゼントであることは白哉にもすぐに分かった。

「ありがとう、緋真。開けてもよいか?」
「いえ、あの・・・はい・・・。」
歯切れの悪い緋真の返事を不思議に思いながらも白哉は包みを開ける。
中身はすぐに真っ白な洋装一式だと知れた。

「緋真、これは?」
「はい、あの、『・・・』です。」
「済まぬ、聞こえなかった。」

少し間が空く。

「『新郎用のタキシード』・・・です。」
「・・・。」
緋真は消えそうな声で答えたが白哉は無言で目を伏せた。
それを見た緋真は“やはり・・・”と思った。

「ごめんなさい!私、本を見ていて白哉様がお召しになったらどんなに素敵かと思ったのです!私が見てみたかっただけなんです!」
身体を小さくして顔も上げずにまくし立てる緋真。
“自分の為に渡すなんて・・・こんなものプレゼントじゃない。”
涙が出そうだった。

白哉はフッと笑うと目を開け立ち上がり隣室の襖を開けた。

「では、私から緋真へこれを。」

白哉の声にこちらの灯りに照らされた隣室の中を見た緋真は目を見開いた。
そこに飾られていたのは純白のウェディングドレス。
レースがふんだんに使われていながら過度な派手さは無く、とても上品な仕上がりとなっている。

「私達は気が合うと思わぬか?」

白哉は白哉で隊舎に配付された『瀞霊廷通信』に目を通しており、同じ記事を見て緋真と同じ事を考えたらしい。

「私も、どうしても緋真に着させたくなった。」
緋真をドレスの前まで導くと優しく語って聞かせる。

「お互いに着てみせれば、十分相手へのプレゼントになると思うが?」
緋真の気持ちをきちんと理解した上でいつも自分を導いてくれる白哉。
そんな白哉に報いる一番の方法を緋真は知っている。

「はい。ありがとうございます、白哉様!」

それは、白哉に笑顔を見せること。


************************


昨夜は遅い時間だった為、『プレゼント』は今日に持ち越しとなっていた。
緋真が白哉の戻りを待ちきれず門の外まで様子を見に行こうと思った矢先、侍女がやってきて廊下から声を掛けた。
「緋真様。白哉様より、今から邸外へお運び下さるようにとの事でございます。」

どちらへ、と問う間もなく緋真は玄関に横付けされていた駕籠に乗せられてしまった。

しばらく乗り物に揺られた緋真は同じ瀞霊廷内で降ろされた。
目の前の見上げるような大きな門には〈一〉と書かれており、護廷十三隊・一番隊の隊舎だと死神ではない緋真にもすぐに知れた。
緋真の到着を待っていたかのように門が重々しく開く。

「どうぞお入り下さい、朽木緋真様。」
中から一番隊の隊員が丁寧に迎えた。
「先にお待ちの朽木副隊長様の下へご案内致します。」

「何分よろしくお願い申し上げます。」
白哉がわざわざ他の隊舎へ緋真を呼び寄せた理由は不明だが、取り敢えず緋真は頭を下げると隊員の後について行った。


「失礼します。奥方様がご到着なされました。」
「入れ。」
室内から白哉の声が応える。
隊員が行儀良く襖を開けた先で白哉が座ってこちらを見ていた。

「緋真、このような場所まで呼び出して済まなかったな。」
「いいえ。ところで・・・なぜ隊舎へ?」
「無論、『プレゼント交換』の為だ。隣室で邸の者が待機している。まずは着て見せてくれぬか。」
白哉は詳細には語らず、緋真は言われた通り着替えるために次の間に入った。


 
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