鰤二次文(リク)

□☆紅葉狩り
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「白哉様、早くいらして下さい!とてもきれいですよ!」
珍しく緋真が大きな声で白哉に呼び掛ける。

今日は良く晴れたおかげで陽射しが強く暖かな日になったが、朝夕はかなり冷え込み秋の深まりが感じられるようになった。
それに合わせて朽木家所有の山林は木々の葉の色を赤や黄に染めていた。

「そのように急くな、緋真。迷うぞ。」
「緋真はそんなに方向音痴ではありませんよ!」
白哉の忠告に返す言葉も普段より気軽なものになっている。

白哉は緋真に一面の紅葉を見せてやるためにわざわざ休暇を取りここへ連れてきた。
白哉の気遣いに邸を出て暫くは恐縮していた緋真だが、やはり一緒に居られる喜びは隠せず途中からは嬉しそうに白哉と並んで歩き、紅葉の林に入ると色づいた葉を見上げながら自然に早足になっていた。

「白哉様。」
一人で先に進んでいた事に気付いた緋真が呼び掛けながら振り返った。
歩いてきた小径はかなり見通しが良いのに白哉の姿が何処にもない。

「・・・白哉様?」

辺りを見回し、木々の間にも目を凝らしてみたが人影はない。
緋真は急に心細くなった。
本当に迷ってしまったようだ。

舞い降る葉が地面に落ちる音さえ聞こえる程の静寂が緋真を包んでいた。

「白哉様。何処ですか?」

それでも白哉の返事はなく、代わりに一陣の風が木枯らしのような冷たさで緋真の周りを吹き抜けていく。
それは木々を揺らし色づいた葉を無数に降らせ、地面を這いながら積もっていた葉を舞い上げて緋真の視界を奪っていった。

「白哉様!」

もう一度大きな声で名前を呼んでみたがやはり返事はない。

「私が白哉様のご忠告を聞かなかったから・・・。」

此処に着くまでの楽しさは忘却の彼方。
緋真の心は不安と白哉への申し訳なさで一杯になっていた。

宙を舞っていた葉が落ちていき徐々に開けていく景色の中には、やはり白哉の姿は無く、陽の光を木々に遮られた林の中で緋真は一層淋しさを募らせていった。


 
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