鰤二次文(リク)
□☆TRICK & TREAT
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「寒くはないか、緋真?」
白哉が緋真に手を貸して、直接縁廊下から私庭に下りた二人。
そのまま手を引き、すぐ横を並んで歩く緋真に白哉が声を掛けた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、白哉様」
戌吊で生きてきた緋真にはこの時期の瀞霊廷の気候など大した事は無いと勿論承知しているのだが、訊ねずにはいられない白哉。緋真はそういった気遣いにいつも感謝を忘れず、白哉を見上げて包み込むような笑顔でお礼の言葉を述べた。
もうすぐ11月になると云うその日、休暇を取った白哉は午前中に邸の用事を一気に片付け、午後からゆっくり緋真と過ごす予定を組んでいた。
ここ数日は曇りがちの天候が続いてすっかり冷え込み、冬の訪れを実感させたが、今日は朝から青空が広がって風も無く、暖かな陽射しが白哉の私庭に降り注いでいる。
数少ない落葉樹は紅葉の時期を過ぎて風に吹かれる事も無く葉を落としていくが、常緑樹がその風情を引き立てるように配されているおかげで庭の美しさは些かも損なわれない。
庭師によって丹精されているこの庭の景色を気に入っている緋真の為に、白哉は庭に野点傘を立てた縁台を設えさせ、そこで午後のひとときを過ごす事にした。
「まあ、何てきれい!」
紅い野点傘と毛氈を敷いた縁台は緑の庭に良く映え、その色彩の美しさに緋真は感嘆の声を上げた。
喜々とする緋真を白哉が手を取って縁台に座らせると、自分も間を空けて腰を下ろした。脇に添えられた別の縁台には茶の道具が準備されている。更に、侍女がやって来て盆を置くとすぐに下がっていった。
「あら…可愛い!」
盆には点てられたばかりの抹茶の入った茶碗が2つと漆塗りの菓子皿が一つ載せられている。
まず白哉に抹茶を出し、それから皿の上を見た緋真が呟いた。
白哉が朽木家の菓子職人に拵えさせたものだ。
「白哉様、ご覧ください。このお菓子、うさぎになっていますよ!」
緋真の明るい声が白哉の耳を心地良く打った。
ほら、と緋真が手を添えた皿の中に品良く並んでいるのは、ひとつひとつに小さな目鼻や耳が付けられた、白兎を模した一口大の十個程の求肥饅頭だった。
「ルキアが見たら喜びそうですね…白哉様、このお菓子を隊舎へ届けさせても浮竹様のご迷惑にはならないでしょうか?」
月半ばから隊舎詰めとなっている妹を思ってそう訊ねた。
「…ああ、構わぬだろう。浮竹はむしろそう云った事を歓迎する男だ」
緋真の喜ぶ姿に白哉は目を細め、渡された茶をゆっくりと飲んだ。