物置

□過去拍手小咄・壱
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*2011年11月度掲載分*


 



《 月の暈(かさ)》



「…兄様?」

ルキアが邸の門を入ると義兄が暗い庭に佇んで夜空を見上げていた。

「今戻りか」

視線をルキアに移した白哉が静かな声で訊ねた。

「はい。浮竹隊長の手伝いをしておりました…何か不穏な気配でも?」

周囲の気配を探りながら訊ねる義妹の様子に白哉は僅かに目を細めた。

「空を見てみろ」

白哉の言葉に従いルキアは空を見上げた。
今宵は満月だが、空一面に薄く雲が掛かっている所為で月の輪郭は些かぼやけている。多忙な義兄がわざわざ見上げる程の月だとは思われなかった。

「気付かぬか?月の周りだ」

白哉に言われ月から周囲の空へと視線を移動したルキア。

「あっ!!」

月の周りを大きく取り囲むようにうっすらと白い環が見えた。

「兄様、大きな環が見えます!」

白哉に目を向け、驚きの声を上げた。

「月暈(げつうん)と云う。今日のように薄雲が掛かると見える事がある」
「 ――― 流石は兄様。自然現象にもお詳しいのですね」

ルキアは尊敬の眼差しで白哉を見つめた。

「幼少時に父から聞いた事だ」
「蒼純様からでございますか?」

遺影の中の蒼純はとても優しげだったが、その面影は白哉に受け継がれている事がよく解る。

「父は祖父から教えられたと言っていた」

まるで朽木家の歴史を伝えているように白哉には思われた。

「そういえば、緋真にも同じ事を語ったな」
「姉様にも、ですか?」

――― 血の繋がりは無くとも、絆が受け継がれていけば…

「緋真が月暈を見つけた時の驚きようは、今のお前の比ではなかった。邸の中に駆け込んで来て、有無を言わせず私を庭へ引っ張り出したのだからな」
「兄様を!?」

だから私は、朽木家の歴史の一部としてこの話をルキアに聞かせよう ―――



fin



10月のある夜、lokoはこの“月暈”を見ました。恐らくlokoの人生で2、3回目位だと思います。
始めは緋真とルキアのお話として書いたのですが、緋真が白哉から『月暈』の事を教えて貰った、とのくだりの所で“じゃあ、びゃっくんは蒼純父様から教えて貰っていると萌えるわね!”と云う妄想が…。それを入れる為に兄様とルキアのお話に変えました。
でも、緋真&ルキアver.も殆ど完成していたので、今回拍手文格納にあたり下記しました。宜しければご覧くださいませ。



『月暈』緋真&ルキアver.


「緋真姉様はどちらに?」

玄関に入ったルキアが出迎えの用人に問うていると、丁度その場へ緋真が現れた。

「ここよ。お帰りなさい、ルキア」
「あ、只今戻りました。私は今、凄い物を見たのです!姉様にも是非お見せしたくて!…今、少しお時間はございますか?」
「ええ、今日は白哉様は隊舎へお泊まりになられるから大丈夫よ。一体何を見たの?」
「姉様、早く履き物を!消えてしまうかもしれません!」
「外なのね…今、行くわ」

素早く履き物を準備した侍女に礼を言い草履を履いた緋真を、ルキアは引っ張らんばかりに庭へと連れ出した。

「姉様、あれです」

ルキアが興奮気味に指し示す場所を緋真が見上げると月が見えた。

「そういえば今日は満月ね。薄く雲が掛かっているのが残念だわ」
「見て頂きたいのは、月の周りです!ほら、環のようなものが見えるのですよ!」
「…まあ!珍しい…月暈ね」
「げつうん?」
「そう、月の暈(かさ)よ。ルキアは初めて見るのね?」
「はい…姉様はご覧になった事があるのですか?」
「ええ。白哉様と…その名前も白哉様から教えて頂いたの」
「そうでしたか…私は初めて見たので姉様もご覧になった事がないのではと思って ――― 外へまで連れ出してしまい、申し訳ございません」

うなだれる妹の姿を見つめて緋真は微笑んだ。

「今日の月暈は環がはっきりと見えて、とても綺麗ね。あなたが教えてくれなかったら見逃していたわ…ありがとう、ルキア」
「姉様…」
「ね、ルキア。暫く一緒に眺めましょうか?」
「はい!」

よく似た面差しの姉妹は並んで夜空を見上げた。

fin
 
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