かいたもの

□二大祭り!
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 論じる事に価値は無い。
 論じる事に意味は無い。
 交わす言葉は遥か彼方、手元に残るのは交わす為の主張。
 交わり、混じり、交差し、混合する。
 万物の境界は霞と化し、交って、混じり、新たに芽吹く。
 そう、ここは――

 交差点



 浮かぶ選択肢/消える選択肢
 状況は秒に届かぬ刻限の中を跳ね回り、取れたはずの選択肢が次の瞬には消え、また浮かんでくる。
 そこに思考は存在せず、頼れるのは慣れと、勘と、本能。
 己が得た後天的な強さ、経験。
 己に宿る先天的な強さ、血脈。
 それらを頼りに、それらを武器に――
「っ!」
 捌く、否、撃ち落とす。
 漏れ出た苦悶を鼓舞に変え、迫る戦斧の軌跡を撃ち落とす。
 志鋼(しこう)に覆われた右の拳が虚空だった場所に飛び込み――火花。
 逸らしたはずの一撃はそのまま空に向かい、その勢いを殺す事無く――柄。
「っっのぉ!」
 下段からの殺意/咄嗟、跳ね上げる膝/衝撃
「……上手く受けるものだな」
「は、どーもです」
 足の裏で柄を受け止めた俺に掛けられるお褒めの言葉。受けて、思わず零れる乾いた笑い。『上手く受けるものだな』じゃーねーのである。上手く避け無かったら死んじゃうのである。全く、なんつー使い手なんですか?
 重さを武器にした重厚な戦斧。それを相手にした事は、何度かある。その際に得た経験則として挙げられるのは『兎に角、避けろ』。
 あながち的外れと言う分けではないはずだ。重さが武器である以上、一撃を捌き、受けるのは至難。だが、一度でも避ければ、虚空に踊ったその重さが仇となり取り回しに支障をきたす。重さを活かした系統の武器を相手にする場合は、一撃目をやり過ごし、二撃目までの間を狙う。
 それが、俺の得た経験則。重量級の武器相手の対処法。
 だが、甘かった。世界はやっぱり広かった。重さを意に介していないわけでは無い。この黒髪の戦斧使いはきちんと重さを理解し、それを活かしている。
 手に馴染んだ、馴染み過ぎた斧はまるで奴の三本目の腕の様に踊り、斬り、断ち、穿つ。
 まるで、根の様に扱われる戦斧は見ていれば参考に成り、勉強になるが、向けられれば恐怖でしか無い。
「……」
 何なんだ?
 一体、この状況は何なんだ?
 何で俺は、こんな特上級の使い手相手に戦ってるんだ?
 放り出されたのか、辿り着いたのか、全てが曖昧のまま気付いた時に立っていたのはこの場所。白い霧に覆われたた古代の格闘場。
 手元にあったモノは衣服に加え、今も俺の両手を覆っている志鋼(しこう)、のみ。
 ……否。
 加えて、もう一つ。
 敵意、殺意、害意。
 目の前に立つ、戦斧使いの巨漢に対する敵意と、殺意と、害意。
 初対面の、何の恨みも無い男に対して持たされた一つの方向に収束する意識。
「……」
 正直、面白くない、笑えない、不愉快だ。……あぁ、そうか。俺はその感情に踊らされ、斬りかかったんだ、この男に。
 明らかに外からの干渉によって持たされた感情に、身体と心を根元から侵され、行動方針として居座られ、実際に従う。不愉快だ、笑えない、面白くない。
「オレは、君に恨みは……無い」
「……俺も、ですよ」
 不意に、戦斧使いの男が漏らす苦痛の声。それに返事を返し、挑む様な前傾姿勢。
 その構えを取らせたのは警戒心。俺もコレなのだ。相手もそうに違いない。殺意を、敵意を、害意を、持っているに違いないと言う決め付けからの警戒心。
 だが、そんな俺に向かい、黒髪の戦斧使いは――
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