小説

□狂い桜
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今日は恭弥と散歩です。まあ散歩と称した花見ですけどね。
勿論、群れるのを好まない恋人に合わせ人気が少ない僕だけが知っている場所です。

「ねぇ‥どこまで行くの?」

片手に弁当、もう片手に恭弥の手を握って山道を歩く。
かれこれ、三十分は歩いているから恭弥の声に怒気が窺える。

「もう少しですよ。この坂を登り切れば、すぐそこですから」

「弁当まで持って‥まだ肌寒いのにピクニックかい?」

僕は家で昼寝したかったのに、と愚痴る恭弥。けれど、手を振り解かずについて来てくれているのは確かだ。
これも一種の愛ですかね。

「あ、見て下さい。桜が綺麗ですよ」

指を指した方向に恭弥が視線を滑らす。

「桜?まだ二月だよ?咲いてるわけが──」

恭弥はその先にある光景に目を見開いていた。

「‥‥ワォ‥何で咲いてるの‥?」

暫く凝視し、やっと言葉を発した。

「日本で言う《狂い桜》でしょうね‥。去年、見つけたのですよ」

実際は犬と千種に探させたんですけどね。

「‥すごく綺麗‥」

美しく淡い桃色の花弁が舞い散る空間に恭弥は歩いていく。
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