Long

□25th
1ページ/4ページ


「あ、これ美味しい。」


「ありがとう。これもなかなかいけるぜ?」


兵部が引っ越したという話を聞かされたあと、渚は彼と共に昼食をとっていた。


ついさっき買ってきたばかりの食材で、一緒に作った食事。


互いが作ったサンドイッチを食べながら、2人は微笑み合った。


「なんだか懐かしい気がする。」


渚がポツリと呟くと、兵部は不思議そうな顔をする。


「何がだい?別に珍しいものでもないだろ?」


「あ、うん、そうなんだけど…」


渚は兵部の顔よりやや下を見た。


「京介さ…京介、が、隣に住んでて、一緒にご飯食べるのは久しぶりだから…」


そしてそう言えば、兵部は一瞬驚いたような顔をするが、すぐに微笑む。


「そうだね。だけどあの頃よりずっと、幸せだ。」


「……うん。」


互いに想い想われ一緒に過ごす時間。


それは、ただ一緒に過ごしただけのものとは比べ物にならないほどの幸福感を味わわせた。


もちろんあの頃があってこその今なのだが。



こうしてのんびりと、幸せに浸るのも悪くない。


兵部は心の中で呟いて、また1つサンドイッチを口に入れた。


彼女が自分を好きでいてくれているとわかった今、焦る必要などないのだ。


おそらく、その反応からして恋愛などしたことがなかったのだろう。


だから、焦らず彼女のペースに合わせて進めばいい。


今だって、名前のことに関してちゃんと努力してくれた。


少しずつでいい、そう思った。


「ただ、1つ問題があるんだけどね…」


「え?」


「いや、何でもないよ。」


兵部が呟いたことに首を傾げた渚に、彼は笑って誤魔化した。



そう、1つ重大な問題を放置していたのだ。


兵部の年齢。


初めて会ったときにはこうなるなど微塵も思っていなかったため、告げないでいた。


だが進展した今、やはり告げなければまずいだろう。


その勇気がないから、こうして悩んでいるのだが。



気がつけば、渚は食事を終えこちらを見ていた。


「ごちそうさま。」


「ごちそうさま。美味しかったよ。」


2人が同時に立ち、片付け始めようとする。


「僕がするからいいよ。渚は座ってて。」


「でも…」


「いいから。ね?」


渋る渚を半ば強制的に座らせ、兵部は皿をキッチンへ運んだ。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ